公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

櫻井よしこ

【第273回】中国に屈服したオバマ大統領

櫻井よしこ / 2014.11.17 (月)


国基研理事長 櫻井よしこ

 

 気概と戦略を欠いたオバマ米大統領こそ習近平中国国家主席の跋扈(ばっこ)を許す最大の要因だ―。これが先週の北京でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)、ミャンマーのネピドーでの東アジア首脳会議(EAS)、オーストラリアのブリスベーンでの20カ国・地域(G20)首脳会議を通じて到達した結論である。
 「新型大国関係」を掲げ、国際社会の秩序変更を目論む中国の前で、オバマ大統領はほぼ無力だった。米中首脳の10時間に上る北京会談は後世、米国の陰りを象徴する場面として記憶されるだろう。

 ●目立った習主席の攻勢
 会談で習主席は徹頭徹尾、新型大国関係にこだわった。12日の共同記者会見も「新型大国関係の発展」で始め「新型大国関係の構築の更なる推進」で締め括った。核心的利益の相互尊重も、太平洋は二大国を受け入れる十分な広さがあるという太平洋分割論も、堂々と主張した。その強気を支える金融、経済の枠組みも中国は事前に用意した。
 国名の頭文字を取ってBRICSと呼ばれる新興5大国を主導しての新開発銀行の創設決定(7月)、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設合意(10月)、総額400億ドルのシルクロード基金の創設発表(11月)に加えて、日米主導の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の足踏み状態を尻目に、TPPを超える枠組みとしてアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)も提唱した。
 ではオバマ大統領は何を準備し、何を語ったか。TPPを進める意気込みも手立ても欠き、米国は豊かで平和で安定した中国の台頭を歓迎し、中国の責任ある行動に期待すると語った。中国経済ゆえに米国経済も成長したとくどいほど繰り返し、「強力かつ協調的な対中関係がピボット(アジア重視)政策の心臓部だ」「両国関係を新たな地平に引き上げる」とも語った。新型大国関係に事実上、呑み込まれたのだ。

 ●日本は地球儀外交推進を
 この気概のなさは直ちに東南アジア諸国に顕著な負の影響を及ぼした。ネピドーでのEASの声明は内容がなく、沈黙したに等しい。半年前の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議で中国の行動に「深刻な懸念」を表明したのとは対照的だ。
 だが、オバマ大統領の期待に反して中国の蛮行は収まるどころか悪質さを増している。10月には南シナ海の西沙諸島の永興(ウッディー)島で軍用滑走路を完成させ、南沙諸島のマビニ礁では6月、埋め立て後に滑走路が確認された。
 わが国の小笠原諸島海域への中国漁船団襲来もサンゴだけが目的ではなく、同諸島から南へ延びるいわゆる第2列島線の戦略的重要性を視野に入れた動きと見るべきだろう。
 戦略・戦術を欠き、精神的に中国に屈服するオバマ大統領が、中国を「大国の座」に押し上げているのである。世界の勢力図の変化の前で、わが国は、米国依存の現状のもろさを認識すべきだ。安倍晋三首相は地球儀外交の戦略を推し進め、日本国の基盤を強化し、気概と力を養うことである。(了)