公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第274回】米が予測する2020年の中国海軍増強

太田文雄 / 2014.11.25 (火)


国基研企画委員 太田文雄

 

 11月20日に出された米議会諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」の年次報告書で、2020年までにアジア太平洋地域に展開する中国海軍の潜水艦とミサイル搭載水上艦の数は351隻に上り得るとの予測がなされた(17、301、329ページ)。2020年といえば、中国人民解放軍の海軍建設のタイムスケジュールでは小笠原からグアムに至るいわゆる第二列島線内の制海を確保する年である。これを予言するかのように、最近、小笠原諸島沿いの海域に一時200隻を超える中国の珊瑚密漁船が出現した。ちょうど尖閣問題が1978年の100隻を超える武装漁船の領海侵犯から始まったように、である。

 ●珊瑚密漁、習主席が黙認か
 今回の中国珊瑚密漁船は3割が福建省、7割が浙江省の船であり、習近平国家主席がかつて17年間と5年間それぞれ勤務した土地であることから、彼のコントロールが十分働く。しかも2014年から彼は国内外の安全保障政策を統括する国家安全委員会のトップにもなり、公安省の指導を受ける海警部隊とつながっている漁船の出漁に積極的ではないにせよ暗黙のゴーサインを出したことは十分考えられる。
 これは『孫子の兵法』謀攻篇第三の「倍すれば則ちこれを分かち」(味方が倍であれば敵を分裂させ)にのっとり、限られた海上保安庁巡視船勢力を尖閣から小笠原列島に「分かつ」とともに、虚実篇第六の「実を避けて虚を撃つ」(敵が備える所を避け、隙のある所を攻撃する)に沿って、日本側の警備の手薄な小笠原を狙ったものと推察される。中国海軍艦艇が第二列島線まで進出するケースも近年急増(254、283ページ)している。

 ●「専守防衛」の呪縛を解け
 こうした中国の動向に対応するためには、報告書にあるように集団的自衛権の行使により日米同盟を強化(421、546、553ページ)するとともに、日本も防衛費及び自衛隊の人員を増加させる必要があるが(422~423ページ)、防衛予算のより効果的な使い方として攻撃的能力を保有する必要があろう。
 海上自衛隊のイージス艦は、米海軍のそれ同様、対地・対艦攻撃能力を保有した巡航ミサイル・トマホークを装備できるにも拘らず、「専守防衛」という呪縛により装備していない。海上自衛隊はSH60ヘリコプターを保有しているものの、米海軍の同型ヘリコプターに装備されている対艦ミサイル・ペンギンを装備していない。また、無人航空機に関しても、安価で攻撃能力のあるプレディターを購入する方がその数倍も高価で攻撃能力のないグローバルホークを購入するより効率的に防衛予算を使用できることは米軍人も指摘しているのに、自衛隊はグローバルホークを導入しようとしている。
 報告書はとりわけ日本との関連で米軍の抑止力低下を懸念(18、331ページ)している。そうであれば、我が国が自発的に抑止力をつけなければならない。戦略理論上からも誤りである「専守防衛」から脱却すれば、軍拡著しい中国を限られた防衛予算のために「攻撃できない」という我が国の「虚」を減らすことができる。(了)