公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

島田洋一

【第288回】歴史情報戦をどう戦うか

島田洋一 / 2015.03.02 (月)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 韓国の朴槿恵大統領が3月1日、恒例の独立運動式典の演説で、「日本が勇気を持って率直に歴史的事実を認め」、元慰安婦たちの「名誉回復」のための措置を取るよう(何百回目かの)要求を行った。しかし、困窮から苦界に身を沈めた女性たちに同情こそすれ、彼女たちを侮蔑するような日本人は、少なくとも私の周りにはいない。すなわち、貶めてもいない「名誉」を「回復」しようがないのである。もちろん、行ってもいない強制連行など認めようがない。

 ●朝日新聞の「92年1月強制連行プロパガンダ」
 「歴史的事実」に関して言えば、慰安婦の「強制連行・性奴隷化」という誤認が国際的に広まった契機は、あたかも決定的資料が見つかったかのごとく、朝日新聞が1992年1月11日付紙面で大々的に行ったプロパガンダ報道にあった。朝日の慰安婦報道に関する独立検証委員会(委員長・中西輝政京大名誉教授)が最近の報告書で実証した通りである。特に英語世界では、米有力紙が朝日の記事や社説を引く形で「誤報」を始めたのはその直後からで、それ以前は慰安婦に関する記事自体見当たらない。因果関係は明白であり、朝日新聞の責任は極めて重大である。

 ●検証されるべき外務省、政治家の責任
 それでも、首相、官房長官を筆頭とする政治家や外務当局が「勇気を持って率直に歴史的事実」のみを提示する姿勢を維持したなら、歪曲のスパイラル的拡大に歯止めをかけ得たろう。ところが、92年当時の宮沢喜一内閣は、朝日のシナリオに踊らされるごとく、直後の首相訪韓から謝罪外交の道をひた走った。第1次、第2次安倍晋三内閣を例外として、歴代内閣の対応もおおむね同様であった。
 外務省の、いかに極端な捏造を突きつけられても事実を争わない敗北主義も徹底している。日本に公式謝罪を求めた2007年の米下院決議の際、加藤良三駐米大使名で有力議員宛て書簡が2度出されているが(2月13日付、6月22日付)、いずれも歴代首相が繰り返し謝罪してきた等々の逃げの反論に終始し、「輪姦や強制堕胎、辱め、性的暴行を含み、四肢の切断や死亡、自殺に至った」といった決議案に見られる重大な事実誤認には全く反論していない。
 特に、委員会採決が迫った6月22日付の「緊急」と銘打たれた書簡では、日本の有志議員、言論人らがワシントン・ポストに載せた意見広告「THE FACTS」(事実)に「日本政府は一切関わっていない」と強調するなど、歴史的事実を忌避する姿勢に教条的な硬直さすら窺える。
 この種の大使書簡がかえって、日本は事実関係では異論がないとの誤解をワシントンにおいて定着させ、決議への抵抗感を弱めた可能性すらあろう。3月4日、国基研はこれらの論点を中心に、「歴史情報戦をどう戦うか」をテーマとした月例研究会を開催する。期待して頂きたい。(了)