公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

島田洋一

【第289回】米国務次官発言と中韓の反応

島田洋一 / 2015.03.09 (月)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 「どこであれ政治指導者が、かつての敵をけなして安っぽい喝采を得るのは簡単だが、そうした挑発は麻痺を生むだけで進歩は生まない」という、慰安婦問題を例に挙げてのウェンディ・シャーマン米国務次官の発言(2月27日)を、朴槿恵大統領への批判と捉え、韓国のメディアや政界が強く反発した。

 ●示唆的な中国御用学者のコラム
 一方、中国政府は沈黙を守っている。北京にとって「歴史」はあくまで日米分断のカードであり、歴史認識でアメリカと揉める事態は避けねばならぬからである。もっとも、著名な御用学者のコラムの形で本音を覗かせている。中国国際問題研究院国際戦略研究所副所長の蘇暁暉氏は次のように言う(人民日報海外版3月3日)。
 「シャーマン国務次官は米国との連携において日本が発揮している役割を高く評価し、『国際法を支持し』『外国の発展に大きな貢献をしている』と日本を公然と称賛しただけでなく、日本と中韓両国との歴史問題における『溝』に魂胆をもって言及し、問題の最大の原因は中韓の『民族主義的感情』にあると結論づけた」
 「米国が日本の責任逃れをいかに助けようとも、国際社会、特にアジア近隣国は『加害者』としての日本を忘れることはない」
 ここには、自由、民主、法の支配、人権という、中国共産党独裁政権の存立基盤を掘り崩す理念によって日米が連携を強める事態を恐れ、韓国だけは確実に取り込んでおきたいとの思惑がストレートに表れている。

 ●韓国は言論空間を閉ざすな
 蘇暁暉氏はさらに慰安婦問題に言及し、次のように続ける。
 「中韓はすでに、関係機関における『慰安婦』問題関連資料の共同研究、複製の相互寄贈で協力することを決めた。日本が同盟関係を利用して歴史問題を避けることもできない。米国は多国間首脳会議の機会を利用して韓米日首脳会談を行い、韓日首脳の仲立ちをした。だが歴史問題のために、3カ国関係の発展は順調にいっていない。韓日首脳は就任以来、1対1の正式な会談をまだ行っていない」
 人民日報海外版に連載コラムを持つ中国共産党の「国際戦略」専門家にここまであからさまに言われて、まだ韓国は、自らが日米韓分断の道具に使われていることに気づかないのであろうか。2月17日、ソウル地裁は、慰安婦問題の実証的研究である朴裕河世宗大学教授(女性)の『帝国の慰安婦』を発禁処分にした。言論空間を閉ざしてはならない。日米韓の学生を集め、シャーマン講演と蘇暁暉コラムをテキストに、国際合同セミナーを行うという案はどうであろうか。(了)