公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

田久保忠衛

【第292回】米の行動いかんで中東は大変動

田久保忠衛 / 2015.03.30 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 
 日本では同意してくれる人は多くないと覚悟しているが、戦略的要衝である紅海の出入り口に位置するイエメンにサウジアラビアが攻撃を加え、アラブ連盟11カ国がサウジ支援態勢を固めたニュースは、この上なく大きいと思う。イスラム教スンニ派のサウジが敵視しているイエメンの組織はイランが背景にいるシーア派武装勢力「フーシ」で、中東においてイランとサウジの代理戦争が開始された。

 ●イランとサウジの代理戦争
 イランは米国を中心とする国連安全保障理事会5常任理事国にドイツを加えた6カ国と核開発問題の協議を重ね、3月31日の期限までに大枠合意が成立するかどうかのぎりぎりの段階に入っている。一方で、イランは革命防衛隊の国外における特殊部隊ゴドス部隊をイラクに送り込み、シーア派武装勢力の訓練、戦闘指揮を進めている。部隊司令官はイラク、シリア、レバノンなどに出没するガーセム・ソレイマニ少将だ。シリアのバシャール・アサド大統領の政府勢力や、レバノンの武装勢力ヒズボラもイランの支配下に置かれている。さらに「フーシ」は軍用機まで所有し、親米派のハディ・イエメン大統領を首都サヌアから追放してしまった。
 「フーシ」が占領するサヌアの空港からイランのテヘランまで週28便が飛んでいる。運航に当たっている航空会社の中にイランのマハン航空が含まれているから、イランと「フーシ」の結び付きがいかに強いかは誰にでも分かる。イエメン軍が所有していたスカッド・ミサイルは、560キロ離れた聖地メッカを含むサウジ諸都市の多くを射程に入れている。サウジにとっては国難が降りかかってきたことになろう。

 ●世界が注目するオバマ政権の出方
 最大の懸念は、国際秩序の維持者であり続けてきた米国がどのような姿勢を世界に示すことができるかだ。オバマ大統領は「世界の警察官をするつもりはない」と公言しつつ、テロには断固対抗すると約束してきた。とりわけイエメンは米国の対テロ戦略が成功した一例だと昨年言明したばかりではないか。にもかかわらず、米特殊部隊は国際テロ組織アルカイダと関係のある「アラビア半島のアルカイダ」の攻撃に遭って、南部基地から3月10日に撤退してしまった。サヌアにいた米国大使は「フーシ」の脅威を恐れてサウジの港湾都市ジッダに大使館を移して執務している。米国がテロに屈したとは考えにくいが、世界中は米国の一挙手一投足を見守っている。
 さらに大局的見地からすれば、米国はシーア派対スンニ派の対立でイランの肩を持つのかどうか。オバマ政権には中東世界を左右するどえらい判断が待ち受けている。(了)