公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第293回】日本の南シナ海関与に期待

太田文雄 / 2015.04.06 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 3月末にフィリピンのマニラで行われた「南シナ海国際会議」でプレゼンテーションを行うように招待された。会議の最後に主催者たちにより、中国の南シナ海での埋め立ての中止・遅延を要求する「南シナ海共同宣言」が採択され、ベトナムとフィリピンが中国の南シナ海進出に対して脅威感を共有し、結束しようとしている姿を目の当たりにした。
 一方で、ほぼ同時に行われたボアオ・フォーラムでは、中国の習近平国家主席が「海洋を平和、友好、協力の海に」と演説、楊潔篪国務委員が中国・東南アジア諸国連合(ASEAN)海洋協力年の開始を宣言して、海洋問題での相互信頼を提唱している。
 私がプレゼンで「中国は言っていることと行っていることが全く違う。中国の行動を国際社会に積極的に公表して、中国が最も嫌う面子の喪失を生じさせるべきだ」と提案したところ、参会者は拍手をもって賛同してくれた。 

 ●東南アに自衛隊待望論
 私に対する最初の質問はベトナムの若い学者からで「日本の南シナ海問題での貢献は現憲法の制約で限られるのか」という、日本の憲法改正を期待している内容であった。
 参加したベトナム人の多くは米国が二度とベトナムに関与したくないことを知っている。ASEANは中国に支援を得ている国が多く、結束に欠けて期待できない。従って中国へのカウンターバランスを取ってくれる国は日本しかいないことをベトナムは実感しており、その期待をひしひしと感じた。
 フィリピンの前安全保障補佐官であった上院議員の発表でも、自衛隊に対する期待が表明された。
 また、3月に都内で行われた日米安保に関するセミナーでも、米側の複数のパネリストから「日本が積極的に東南アジアに関与してもらいたい」との発言があった。
 1992年、ハワイにあるイースト・ウエスト・センター主催のアジア安全保障に関するセミナーに招かれたことがある。当時は日本が初めてカンボジアへ国連平和維持活動(PKO)部隊の派遣を決定した直後であったが、ベトナムの代表が「用が済んだら直ちに自衛隊はカンボジアから出て行ってほしい」と発言したことを鮮明に覚えている。この四半世紀でアジアの安全保障環境は一変している。

 ●安保法制整備で期待に応えよ
 外交の両輪である経済力と軍事力のうち、戦後日本は軍事力に関して異常なほどの縛りをかけてきた。南シナ海には、中東からのエネルギー資源を運ぶ海上交通路を保護するという我が国の重要な国益が存在する。中国はそこに進出して基地を造ろうとしており、日本はそれを懸念する多くの国の期待に応えるように現在進行中の安全保障法制整備を行うべきであろう。(了)