中国が主導して年内に設立を目指している「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)に、日本政府からも参加の可能性を探る動きが出ているようだ。とんでもないことである。AIIBの構想は、アジアから米国を排除してこの地域で優越する立場を築こうとする中国の長期戦略の一環として打ち出されたものであり、これに出資国として参加することは、中国の地域覇権掌握に力を貸すことになりかねない。
●米主導秩序への挑戦
中国の習近平政権は、中華人民共和国建国100年に当たる2049年までに「中華民族の偉大な復興」を成し遂げることを目標にしており、その「中国の夢」を邪魔するいわば「目の上のたんこぶ」がアジアで重きを成す米国の存在である。
習近平国家主席は2013年3月の就任以来、アジアで中国中心の新たな秩序をつくり出す構想を相次いで打ち出してきた。安全保障分野では昨年5月の国際会議で、米国を排除した地域安保協力体制の構築を呼び掛け、米国を中心とする同盟関係が保ってきた第2次世界大戦後のアジアの安保秩序に挑戦状をたたきつけた。
経済・金融分野では、陸上と海上の二つのシルクロード経済圏創設構想を発表し、地域諸国のインフラ整備のため中国単独で400億ドルのシルクロード基金を設立した。それとは別に発表されたのがAIIBの設立構想で、銀行の本部を北京に置き、当初資本金500億ドルの半分を中国が出資する。目的はアジアのインフラ整備と発展とされる。
中国メディアは習主席の一連のアジア開発支援計画を「中国版マーシャル・プラン」と呼び、シルクロード経済圏とAIIBをその両輪と位置付けている。言うまでもなく、元祖のマーシャル・プランは、第2次大戦後に共産主義が欧州に浸透するのを防ぐ目的で米国が大々的に行った西欧復興支援計画を指す。その中国版を称することで、米国が築き上げた国際経済・金融秩序を改める意欲がみなぎる。
国名の頭文字からBRICSと呼ばれる新興5大国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が中国のイニシアチブで設立に合意した「新開発銀行」も、資金面で中国版マーシャル・プランを支える。
●欧州の参加に動じるな
AIIBは、日米が主導する既存のアジア開発銀行(ADB)が厳しい審査基準のために、増大するアジアの融資需要を満たせない隙をついて設立される。しかし、運営上の発言権は出資比率に左右されるので、中国によって恣意的な融資決定が行われる恐れがある。
中国の呼び掛けで参加を決めたのは、当初はアジア、中東諸国ばかりだったが、創設メンバーが決定される3月末を前に、英国、ドイツ、フランス、イタリアといった欧州有力国が相次いで参加を表明した。欧州諸国は、中国がアジアで優越的な立場に立っても国益はそれほど損なわれないから、AIIB参加への拒絶反応が少ないのだろう。日本が置かれている地政学的な状況は異なる。欧州の参加に動じる必要はない。(了)