5月5日、米国の学者187人が慰安婦問題をめぐる日本政府の姿勢を批判する新たな声明を出した。その声明を一読し、私はやっと米国の学界でも日本国内での激しい論争の結果が理解されたのかと思った。
●「強制連行」説の誤りを認めた
これまで米国では、日本軍が数十万人の朝鮮人女性を強制連行して慰安婦にしたという、日本の学界と言論界で1997年に完全に否定された古い見解を、あたかも事実のように扱ってきた。昨年、朝日新聞がその点をあらためて認めて謝罪したことの意味も、米国に正しく伝わっていなかった。慰安婦問題に関する2007年の米下院決議や、現在問題になっている米マグロウヒル社の歴史教科書の記述も、そのような誤解の上に成り立っている。
しかし、今回の声明では、軍による強制連行を明言する記述は入っていない。その代わり、「大勢の女性が自己の意思に反して拘束され、恐ろしい暴力にさらされたことは、既に資料と証言が明らかにしている通りです」と書いて、本人たちの意思に反する動員があったことを強調している。
これは、1997年、朝日新聞が持ち出した「広義の強制」論とそっくりの議論だ。朝日は自分たちが吉田清治証言などを使って作り上げた「軍による強制連行」説を「狭義の強制」として事実上否定し、新たに「広義の強制」を持ち出したのだが、今回の声明も全く同じことを言っている。
20年以上、この問題について論争をしてきた者として、米国学者の皆さん、ついに事実誤認を認めたのですね、と言いたい心境だ。
●新たな事実誤認
しかし、残念ながら今回の声明は、米国における議論がこれまでいかに間違っていたかを直視していない。187人がまずなすべきは、下院決議における次のような事実に基づかない記述を修正する努力ではないか。
〈日本政府は、「慰安婦」と呼ばれる若い女性たちを日本軍に性的サービスを提供する目的で動員させた。日本政府による強制的な軍隊売春制度「慰安婦」は、「集団強姦」や「強制流産」「恥辱」「身体切断」「死亡」「自殺を招いた性的暴行」など、残虐性と規模において前例のない20世紀最大規模の人身売買のひとつである〉
それなのに、声明はタイトルを「日本の歴史家を支持する声明」と付け、本文中に「政府による操作や検閲、そして個人的脅迫からも自由でなければなりません」と書いて、あたかも日本の政府や保守勢力が慰安婦問題に関する学者の研究や言論に介入しているかのような新たな事実誤認を犯している。事実に基づく冷静な論争を行いましょう、と米国の学者らにあらためて訴えたい。(了)