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太田文雄

【第300回】中国の埋め立てに沈黙する環境団体の偽善

太田文雄 / 2015.05.18 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 米国防総省が最近発表したところによると、南シナ海における中国の埋め立て面積は約8平方キロ(東京ドーム170個分)に上り、昨年12月末時点から4カ月余りで4倍に拡大した。その過程で、中国は莫大なサンゴ礁をダイナマイトで破壊してきた。
 ところが、グリーンピースなど環境保護団体は、中国に抗議や反対の声を一切上げない。沖縄県辺野古沖の米海兵隊普天間飛行場移設工事では、ブイを固定するために設置したコンクリートブロックがサンゴ礁に触れただけで「サンゴ礁が破壊される」と主張し、工事に反対しているにもかかわらず、である。ここに、いわゆる環境保護団体の偽善を感じる。
 米国の戦略国際問題研究所(CSIS)は「アジア海洋透明度構想」と題するサイト(http://amti.csis.org)を立ち上げ、中国の南シナ海埋め立て作業を時系列的に追う上空からの写真を掲載しているが、同サイトに最近、埋め立ては魚の生態系を破壊するというフィリピン人学者の記事が掲載された。
 中国は中米のニカラグア運河建設でも、絶滅危惧種を含めた動植物の生態系に取り返しのつかない被害をもたらそうとしている。

 ●日本の安全保障への影響
 しかし、問題は環境破壊にとどまらない。南シナ海における中国の埋め立ては、日本の安全保障に次のように甚大な影響を及ぼす。
 第一に、日本の大切な海上交通路は中国が埋め立て中のジョンソン・サウス礁等と、2012年に中国がフィリピンから奪ったスカボロー礁のすぐ近くを通っており、基地建設が進めば、海上交通路への大きな脅威となる。
 第二に、埋め立てにより中国の「領土」とそれに伴う排他的経済水域が拡大され、南シナ海の全域に中国空軍機の活動範囲が及ぶ。東シナ海と同様の防空識別圏が中国によって設定されれば、航行と飛行の自由が侵される。
 第三に、旧ソ連がオホーツク海を聖域としたように、中国はスカボロー礁、ジョンソン・サウス礁等、そして1974年から実効支配している永興島で囲まれる戦略的三角形を中国の聖域とすることができる。米本土を直接狙える次世代の潜水艦発射弾道ミサイルJL3を搭載する原子力潜水艦がこの聖域を遊弋(ゆうよく)するようになれば、仮に日中間で紛争がエスカレートした場合、米国は中国に対する核戦力行使を躊躇するようになるであろう。

 ●南シナ海で日米合同哨戒を
 海上自衛隊は米海軍が主導する南シナ海での海軍演習に参加している。昨年10~11月に行われた訓練では、実戦的な対空、対潜、対水上戦の訓練を始めた。それは南シナ海に我が国の国益があるからである。
 海自は哨戒機を多く保有している。フィリピンにあるかつての米空軍基地を利用し、海自機が米海軍機と共に南シナ海を哨戒することは能力的に可能であり、日本の国益を守りかつ日米同盟を強化するためにも必要なことではあるまいか。それを「中国を刺激する」と諦めてしまえば、その時点で中国は「勝利した」と思うであろう。(了)