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島田洋一

【第301回・特別版】慰安婦制度は人身売買に当たらない

島田洋一 / 2015.05.19 (火)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 安倍首相は米紙ワシントン・ポスト2015年3月26日付のインタビュー以来、旧日本軍の慰安婦について、「人身売買の犠牲となって筆舌に尽くしがたい思いをした方々のことを思うと、今も胸が痛む」との言い方を用いている。この「人身売買」はhuman traffickingと英訳されている。human traffickingについては、国連総会が採択した国際条約で定義が示されており、反日勢力に乗じられないよう注意が必要だ。

 ●国際条約による定義
 2000年11月15日に国連総会で採択された「国際組織犯罪防止条約を補足する議定書」第2号は、「人身取引」(human traffickingの外務省訳)を「搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫もしくはその行使、誘拐、詐欺、(中略)の手段を用いて人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、または収受することをいう」(外務省訳)と規定している。許しがたい犯罪行為であり、国際的な非難と取り締まりの対象とするのは当然だ。
 留意すべきは、強制や誘拐、詐欺などを伴わない18歳以上の女子による売春は、いかに不幸な事情があるにせよ、「人身取引」に当たらないという点である。
 欧州では売春を合法化している国もあり、売春自体を組織犯罪と見なす議定書なら、それら諸国は同意し得なかったであろう。なお、中国や北朝鮮はこの議定書に署名していない。

 ●慰安婦すべてが犠牲者ではない
 議定書に言う「人身取引」の犠牲者に当たるか否かに拘わらず、すべての慰安婦が不幸な境涯にあったことは間違いない。好きこのんで体を売る女性がいるはずもない。
 そして慰安婦の中に、人身売買の犠牲者にはっきり該当する人々がいたことも間違いない。悪徳業者の排除を日本軍が指示していることからも、状況の一端が窺える。しかし、安易に慰安婦全体を人身売買の犠牲者と規定するなら、わが国の名誉を不当に傷つけることになる。
 5月初旬、米国を中心とする「日本研究者」ら187人が発表した慰安婦問題声明に、「20世紀に繰り広げられた数々の戦時における性的暴力と軍隊にまつわる売春のなかでも、『慰安婦』制度はその規模の大きさと、軍隊による組織的な管理が行われたという点において、そして日本の植民地と占領地から、貧しく弱い立場にいた若い女性を搾取したという点において、特筆すべきもの」とある。ここには、「慰安婦制度」イコール「日本軍による大規模かつ組織的な人身売買」とする誤った認識がある。
 安倍首相は人身売買の主体をあえて曖昧にしており、それは中韓の反発に見られるように一定の効果を上げているが、一方、新たな誤解を拡げる危険もはらむ。慰安婦制度自体は国際法上の人身売買に当たらない。この点を政府として戦略的に発信していく必要があろう。(了)