5月21日、中国空軍機が初めて沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡上空を通過し、西太平洋で日帰り訓練を行った。訓練に参加した最新鋭の爆撃機H6Kは、搭載する巡航ミサイルで米軍のアジア戦略の重要拠点グアムを攻撃する能力を持つ。中国と東南アジア諸国が領有権争いをする南シナ海での中国の岩礁埋め立てをめぐり、米中対立が厳しさを増す中で、中国は訓練の実施を通じ、増強著しい軍事力を米国に誇示した形だ。
●最新爆撃機が宮古海峡通過
H6Kは、冷戦時代に名をはせた旧ソ連の爆撃機バジャー(Tu16)をモデルに中国が国産化したH6シリーズの最新型機だ。戦闘行動半径は3500キロと伝えられ、地上攻撃用の巡航ミサイルを搭載して、中国空軍機が従来到達し得なかったグアムの米軍基地をたたくことができる。
グアムには、米軍のステルス戦闘機F22やステルス爆撃機B2がローテーション配備され、攻撃型原子力潜水艦が母港を置くほか、在日米軍再編に伴い沖縄から海兵隊の一部が移転される予定だ。台湾海峡や南シナ海、東シナ海での有事の際に、中国は在日米軍基地の使用を妨害するため、沖縄や日本本土を攻撃できる兵器の充実に力を入れてきた。そのため米国にとって、中国から遠く離れたグアムの基地の重要性が増している。
しかし、中国は近年、グアムを攻撃できる兵器の開発に力を入れており、その一つがH6Kと巡航ミサイルの組み合わせである。H6Kは今年3月末には、台湾とフィリピンの間のバシー海峡上空を今回と同様な訓練のために通過している。
●埋め立て問題での圧力はねつけ
5月21日の空軍訓練に先立ち、ケリー米国務長官が同月半ばに北京を訪問し、南シナ海における中国の埋め立ての速度と規模に対する懸念を習近平国家主席はじめ中国指導部に伝えた。しかし、中国側は「国家主権と領土保全を守る決意は微動だにしない」(王毅外相)と突っぱね、協議は物別れに終わった。訓練直前の20日には、米国が海軍の対潜哨戒機P8を埋め立てで出現しつつある人工島の周辺上空に飛ばし、国際海域・空域における航行の自由の権利を行使したのに対し、中国軍機が飛来して退去を要求し、緊張が走った。
それを受けての中国空軍の訓練実施は、埋め立て問題での米国の圧力をはねつける意味合いを含んでいる。米国防総省は、埋め立てによる中国の一方的な「領土」拡大を容認しない立場から、国際法で領海・領空と定められている人工島の海岸線から12カイリ以内に海軍艦船や哨戒機を進入させることを検討中といわれる。実行にはホワイトハウスの承認が必要だが、オバマ大統領は中国に毅然とした態度を貫けるだろうか。海外での軍事力行使を極端に嫌うオバマ政権が腰砕けにならないか、一抹の不安がある。(了)