公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第304回・特別版】中国国防白書の五つのうそ

太田文雄 / 2015.06.01 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 5月26日に中国国防白書が発表された。2013年4月に発表された前回の白書のタイトルが「中国の国防」であったのに対し、今回は「中国軍事戦略」となっている。同時に、前回の白書では兵員、艦艇、航空機の数を明示し、また外国軍隊との共同訓練、災害派遣、国連平和維持活動(PKO)派遣等を一覧表にしていたものが今回はなくなり、その意味では透明度は後退している。また今回新しく出てきた言葉に「軍事抗争への準備」があり、この説明に一章を割いて、将来予測される東・南シナ海での軍事衝突に対する準備を説いている。
 5月初めに米国防総省は「中国の軍事力・安全保障の進展に関する年次報告」という報告書を議会に提出した。今回の中国国防白書と照らし合わせて、中国が公約していることと実際に行っていることの乖離を五つ感じたので、以下述べてみたい。
 
 ●南シナ海埋め立ては「拡張」でない?
 1、冒頭の序文に「中国は覇権や拡張を求めない」とある。前回の白書では「拡張」という言葉はなかった。現在、南シナ海で中国が行っている岩礁の埋め立てと基地建設は「拡張」そのものではないのか。
 2、第4章「中国軍の構築と発展」の中に「宇宙における武装化と軍備競争に反対する」とある。しかし、米国防総省が出した報告書には、中国が2007年1月に宇宙へ大量のデブリ(ゴミ)をまき散らした衛星破壊実験に続き、昨年7月23日にも衛星破壊技術の実験を行ったことが書かれている。
 3、同章には「中国が、そのサイバー・インフラに対してゆゆしい安全保障上の脅威に直面している」とサイバー攻撃の被害者を装っているが、昨年5月、ホルダー米司法長官が人民解放軍将校5名を米国への産業スパイ行為を理由に起訴したと発表した事実をはじめとして、中国が行ってきたサイバー戦は世界中で有名である。
 4、同章に「中国は他国と核軍拡競争に入ることは決してない」とあるが、核保有国の中で、唯一顕著な核軍拡を行っているのが中国であることは専門家の間では常識となっている。
 5、最終章の「軍・安全保障協力」では「軍の信頼醸成措置」について言及している。しかし昨年、中国海軍は米海軍が主催する環太平洋合同演習(リムパック)に初めて招待されたが、派遣艦艇以外に6000トンの東調級情報収集艦を派遣して電子偵察をも含むスパイ行動を行った。このためマケイン米上院軍事委員長が次回の環太平洋合同演習に中国を招待すべきではないとの勧告をカーター国防長官に提出したほど「信頼毀損」行動を行っているのである。

 ●「だまし」は中国の伝統
 中国が言っていることと行っていることは一致しない。これは2500年以上前の『孫子の兵法』計篇第一で「兵は詭道(だますこと)なり」としている以来の伝統と認識して、中国の公文書を読まなければなるまい。(了)