公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

冨山泰

【第305回】迫力不足だった防衛相演説

冨山泰 / 2015.06.01 (月)


国基研研究員兼企画委員 冨山泰

 

 5月29~31日にシンガポールで開かれた各国国防・軍首脳によるアジア安全保障会議(シャングリラ対話)で、中国による南シナ海の岩礁埋め立てをめぐり、米中の主張が激突した。国際会議初登場のカーター米国防長官は埋め立ての即時・永続的中止を要求するとともに、現場の海空域における米軍の警戒監視活動の継続を表明して、歯切れがよかった。それに引き換え、米国と連携すべき立場にある中谷元・防衛相の演説は、自衛隊の今後の具体的行動に言及せず、迫力不足の感を否めなかった。

 ●歯切れの良い米国防長官
 今年2月に就任したばかりのカーター長官の演説は、直前の27日にハワイの米太平洋軍司令官交代式典で行った演説の基本線を繰り返したもので、中国の力による現状変更を容認しないことを改めて明確にした。中国の埋め立てで出現した人工島を新たな「領土」と認めない立場から、国際法で領海・領空と認定されている人工島の海岸線から12カイリ以内に米軍の艦船や航空機を送るという国防総省の提案は、ホワイトハウスの裁断待ちのようで、演説では触れられなかった。しかし、「米国は(国際海域における航行と上空通過の自由の)権利行使を妨げられない」というカーター長官の強い表現は、オバマ大統領の承認さえ得られれば、12カイリ以内への進入を実行する決意と受け取れた。
 これに対して中国を代表して演説した孫建国人民解放軍副総参謀長(海軍上将)は、中国による岩礁埋め立てと人工島での施設建設は「正当かつ合法的で合理的」と突っぱね、中国の活動は航行の自由に影響を及ぼしていないと反論した。これとそっくりの表現は、演説後のカーター長官に会場から質問した人民解放軍の上級大佐も使っており、中国軍部の統一公式見解のようだ。

 ●自衛隊の監視参加は現行法で可能
 中谷防衛相は、中国の埋め立てと施設建設を「深く遺憾」として「懸念」を表明し、「責任ある国家」として行動するよう求めた。しかし、カーター長官と違って、埋め立ての即時・永続的中止などには踏み込まなかった。また、海上自衛隊が南シナ海で米海軍と共同訓練を行ってきたことに触れたものの、今後、警戒監視活動に参加する覚悟があるかどうかは明らかにしなかった。
 防衛省幹部によれば、南シナ海での自衛隊の警戒監視活動は、国会で審議中の平和安保法制の関連法案の成立を待たず、現行法制でも実行可能である。人工島を元の岩礁に戻すことは一筋縄でいかないとしても、これ以上の埋め立てと施設建設を阻止する決意を示すため、米軍に歩調を合わせた自衛隊の警戒監視活動を検討すべき時ではないか。(了)