公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

百地章

【第306回】船田氏は憲法改正推進本部長を辞任せよ

百地章 / 2015.06.08 (月)


国基研理事・日本大学教授 百地章

 

 6月4日の衆院憲法審査会で、あろうことか自民党推薦の参考人が集団的自衛権の行使や安全保障関連法案を憲法違反と指摘し、国会やマスメディアにおいて連日大変な騒ぎとなっている。

 ●想定内の参考人発言
 報道によれば、問題の長谷部恭男早大教授の違憲発言について、人選にゴーサインを出した党の責任者である船田元・衆院議員は記者団に「ちょっと予想を超えた」「野党にうまく利用されてしまった」と弁解しているが、自民党憲法改正推進本部長の発言とはとても思えない。余りにもお粗末だ。
 長谷部教授は、一昨年の特定秘密保護法案には賛成したものの、憲法96条が規定する国会の改憲発議要件の緩和に反対する「96条の会」の発起人の1人であり、朝日新聞紙上で繰り返し自民党や安倍晋三政権を批判してきた明らかに護憲陣営に属する憲法学者である。船田氏はそんなことさえご存じないのか。
 それに「後半の議論が安保法制になったのは予想外だった」と釈明しているが、何の言い訳にもならない。筆者も衆参両院の憲法審査会に参考人として何度か出席しているが、その日のテーマから外れた質問が飛び出してくるのはいつものことである。今回、野党議員がこれ幸いと安保法制を取り上げ、長谷部教授から違憲発言を引き出したのは、想定内のことである。船田氏はそんな見識さえ持ち合わせておられないのか。

 ●後退し続けの司令塔
 船田氏は今年2月にも問題発言をした。安倍首相との会見後、「憲法改正の発議は来年の参院選後であり、首相も同じ考えだ」と言ったのだ。拙稿「安易な先送り避け憲法改正急げ」(3月13日付産経新聞『正論』)で指摘したように、首相は時期など明言していない旨、国会でも答えており、船田発言が独り歩きをしている。
 船田氏は昨年秋、「次の参院選までに1回目の憲法改正発議をやりたい」と述べていたが、それが「参院選後」となり、最近では「ここ2年以内」と次々に後退している。2年後といえば、国民の不評を買いかねない消費増税とぶつかり、憲法改正国民投票などできるはずがない。こんなことが分からないで、憲法改正推進本部の司令塔など務まるのか。
 最大の問題は、船田氏が憲法改正をスポーツ感覚でとらえているのではないかということだ。戦後体制を根底から見直そうとするのが憲法改正であって、まさに「戦い」である。だから、スポーツのようにやり直しはきかないし、敗者復活などあり得ない。「押すだけでなく退くことも大事だ」というのが船田氏の持論のようだし、それは理解できる。しかし、船田氏は「押されっぱなし」ではないか。選挙の本質が「銃弾(ブレット)に代えて投票(バロット)を」というものであることさえご存じないのだろうか。
 「戦い」の気構えなくして、憲法改正という戦後最大の国家的大事業など成し遂げられるはずがない。ここは船田氏に、潔く身を引いていただくしかなかろう。(了)