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島田洋一

【第307回・特別版】「座して死を待つ」が国会の総意か

島田洋一 / 2015.06.08 (月)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 集団的自衛権の行使に道を開こうとする安倍晋三首相の姿勢は間違いなく正しいが、連立与党内の妥協や国会対策上の考慮から、自衛権行使における重要要素を毀損しかねない答弁が幾つか見られる。そして、その「誤り」を問題としない国会の状況も異様と言わねばならない。

 ●敵基地攻撃は永遠に米国頼みか
 6月1日、集団的自衛権の行使によって「敵基地を攻撃することまで可能なのか」との共産党議員の質問に対し、安倍首相は「ミサイル発射基地を攻撃しなければ国民を守れない、座して死を待つべきではないという論理が控えているが、個別的自衛権においても、その能力を持っていない。ましてや集団的自衛権において、打撃力を持っている米国が、打撃力を持っていない日本に要請してくることは現実問題としてあり得ない」と答弁した。
 普通の国なら、「それは永遠に打撃力を持たないという意味か。座して死を待つ状況に国民を置き続けるのか」という厳しい追及が続いたはずだ。ところが、米国が何とかしてくれるのでは、という与野党暗黙の合意の下、誰もそれ以上議論を深めようとしない。
 自民党の国防部会は2009年5月、「防衛大綱改定に向けた素案概要」で「策源地攻撃が必要」と明記し、海上発射型巡航ミサイルの導入を提言したが、たなざらしとなったままである。他の党は推して知るべしだ。

 ●拉致被害者救出は憲法違反なのか
 「身体、生命に対する重大かつ急迫な侵害」にさらされた在外邦人の救出に関し、1991年3月13日、小松一郎政府委員(外務省)は衆院安保特別委員会で要旨次のように答弁した。
 「その所在地国が外国人に対する侵害を排除する意思または能力を持たない場合、保護・救出のためその本国が必要最小限度の武力を行使することは自衛権の行使として認められる場合がある」
 北朝鮮にいる拉致被害者の救出は、当然その「場合」に当たるだろう。
 ところが、安倍首相は2014年3月5日の参院予算委員会で、「わが国に対する武力攻撃が発生しているわけではない北朝鮮の内乱のような事態については、直ちに自衛権発動の要件に該当するとは言えない。自衛隊の特殊部隊を救出のため派遣するといった対応を取ることは憲法上難しい」と答弁している。この発言に対しても、与野党とも疑問を呈しなかった。
 旧日米安保条約(1951年調印、翌年発効)は集団的自衛権の「行使」を明記していた。しかしその後政府は、反軍・平和主義的な野党の攻勢から個別的自衛権だけは守ろうと、集団的自衛権を総じて捨てる憲法解釈に転換した。
 いま、その誤りを正すべく、安倍政権は集団的自衛権の限定行使を定めた法案を国会に提出したが、その法案を通すため、自衛権全体の行使に将来にわたって禍根を残すような便宜的答弁がなされてはならないだろう。
 仮にこの法案が通っても、日本の防衛体制はまだ国際常識から程遠い状態にあることを、現下の国会審議が如実に示している。(了)