国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一
国連で「福田合意」継承を宣言
自民党政治の抜本見直しを掲げる鳩山政権が、驚くほど無批判に“過去”を受け継ごうとしている問題がある。対北朝鮮政策である。9月24日、鳩山由紀夫首相は、国連総会演説で次のように語った。
「拉致問題については、昨年に合意したとおり速やかに全面的な調査を開始する等の、北朝鮮による前向きな行動が日朝関係進展の糸口となるでありましょうし、そのような北朝鮮による前向きかつ誠意ある行動があれば、日本としても前向きに対応する用意があります」
「昨年に合意したとおり」とわざわざ特定した上、「調査開始」を「行動」と位置づける認識はあまりにも危うい。昨年6月13日、福田政権が交わした問題の日朝合意直後、斎木昭隆外務省アジア大洋州局長が家族会・救う会に行った報告会に私も出席した。
北の「再調査」に期限は切っていないが、日本側は前日段階で制裁を一部解除したと説明する斎木氏に対し、私はこう尋ねた。
「拉致被害者に関する『再調査開始』という北の単なる口約束・ジェスチャーに過ぎないものに対し、こちらはただちに制裁解除し実利を与えるというのは明らかにバランスを欠く。また、米国が北のテロ支援国指定を解除しようかどうかという時期、日朝関係で進展があったかのごとき誤ったシグナルを発したことも重大だ。要するに間違った外交ではないか」
「すべての北朝鮮船舶」を認める?
同席した中山恭子拉致担当補佐官(当時)が、人道物資を運ぶ目的で北朝鮮貨客船「万景峰号」が入港するのを認めることになったと(不満げに)補足すると、斎木氏がすかさず、「いやすべての北朝鮮船舶に、人道目的なら、入港を認めます」と正確を期す訂正をした。しかし、「人道目的」の定義について正確な説明はついになかった。聞けば聞くほど、日本政府がまた騙されようとしているとの疑念は深まるばかりであった。
事務次官、アジア大洋州局長など外務省幹部の陣容は、この福田合意の時と変わっていない。鳩山氏は、口約束やジェスチャーに対して行動で報いる「官僚主導」の福田路線を、「官僚主導」でふらふら継承してはならない。(了)
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第6回:鳩山政権の危うい北朝鮮対応(島田洋一)