8月4日にクアラルンプールで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議の共同声明は、中国の海洋侵出の脅威に対し、名指しを避けつつ「引き続き深刻な懸念」を表明した。ASEAN内部には、ラオスやカンボジアなどの親中勢力があり、フィリピンやベトナムが主張する対中強硬策にブレーキをかけているのが実情だ。
一方、中国は5日のASEANとの外相会議で、南シナ海における問題解決に向けた「行動規範」の早期策定、国際法に基づく航行の自由の順守などを盛り込んだ10項目の提案を示し、ASEAN各国からの圧力をかわそうとしている。さらに、提案の中に「域外国の介入に反対」を盛り込み、ASEAN各国と米国が連携することを阻止する姿勢を打ち出した。
●協力の核となり得る日本
中国の目指すところは「中華民族の偉大なる復興」であり、明の時代のように近隣国を従え、アジアの海底資源も水産資源もすべて中華民族のものにしようとしているのだ。アジアの力を結集しない限り、中国の海洋侵出に歯止めをかけることはできない。
しかし、ASEAN各国は一枚岩ではない。南シナ海の漁場の問題では、インドネシア、フィリピン、ベトナムなどは互いに敵対関係にあるといっても過言ではないだろう。インドネシアは、密漁の嫌疑で拿捕したベトナム、フィリピン、中国の漁船を爆破するなど、一触即発の状況だ。アジアの対立を緩和し、その協力の核となり得るのは、アジアの大半の国から信頼されている日本だけである。
南シナ海航路は、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナムなど東南アジアの主要な国と日本を結ぶ重要なシーレーン(海上交通路)であり、迂回航路は存在しない。南シナ海の安全確保は、重要航路としてこの海域を利用する日本の責務でもある。海洋国家である日本の経験と見識をアジア海域の平和のために役立てなければならないのだ。
●モデルは海賊対処の枠組み
アジア海域における紛争を回避するには、関係国間の海洋管理に関する情報共有が求められる。しかし、安全保障に関わる情報共有は、現状では不可能である。まず、航路を含めた海域の利用および開発の状況、環境保護、漁業などに関する横断的な情報共有から始めることが現実的である。
前例は海賊対策にある。日本が中心となり、海賊に対処するためにアジア海賊対策地域協力協定が結ばれた。すでにアジアだけでなく、英国や米国をはじめとした域外の国も参加し、情報の共有体制が敷かれている。また、インドネシア、マレーシアは国情からこの協定に加盟していないが、常に協調態勢をとっている。
このような海賊対処の枠組みを海洋問題に広げて行くのだ。中国は既に南シナ海に七つの人工島を造り上げた。今、日本が動かなければ、アジア海域の平和は崩されてしまう。(了)