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冨山泰

【第356回・特別版】次の航行の自由作戦はミスチーフ礁で

冨山泰 / 2016.02.08 (月)


国基研研究員兼企画委員 冨山泰

 

 米国は1月30日、南シナ海で中国が支配する島や岩から12カイリ以内を軍艦が通過する「航行の自由」作戦を3カ月ぶりに実施した。昨年10月の前回作戦がスプラトリー(南沙)諸島で中国が建設した人工島の近くで行われたのに対し、今回は埋め立てとは無関係のパラセル(西沙)諸島の海域で実施された。中国による航行の自由の侵害を許さないとの意思表示は2回の作戦に共通しているものの、人工島建設に反対するというメッセージは今回欠落した。

 ●無害通航権の行使
 今回、米海軍のイージス艦「カーティス・ウィルバー」が接近したパラセル諸島のトリトン島は、1974年に中国が旧南ベトナムとの海戦で奪って以降、40年以上も占拠している島々の一つだ。2014年には中国がトリトン島近くに大型の石油掘削装置を搬入し、ベトナムとの間で小競り合いが起きた。
 このいわく付きの海域で行われた今回の作戦は、軍艦の無害通航権の行使として実施された。無害通航権とは沿岸国の平和、秩序、安全を害さない限り外国船が領海を通航できる国際法上の権利をいう。中国は軍艦の通航に事前許可を得るよう要求しているが、米国はこの要求は無害通航権の侵害であると主張し、今回の航行を通告なしに実行した。
 実は、昨年10月の作戦も、無害通航権の行使として実施された。作戦の対象となったスビ礁は、スプラトリー諸島で中国が埋め立てている七つの岩礁のうち、満潮時に水没する低潮高地と呼ばれる二つの岩礁の一つで、埋め立てて人工島を造っても、原則的にその周囲は領海と認められない。
 ただ、低潮高地から12カイリ以内に満潮時にも水没しない島があれば、その島がつくる領海は低潮高地からさらに12カイリまで拡大する。低潮高地であるスビ礁から12カイリ以内にはサンディ・ケイという無人島があり、スビ礁の周囲12カイリは領海と解釈される余地がある。
 そこで米国は、スビ礁の周辺が仮に領海だとしてもイージス艦「ラッセン」の航行に国際法上の問題が生じないように、事前通告なしの無害通航権の行使という形を取った。スビ礁周辺を中国の領海と認めたわけではない。

 ●人工島反対のメッセージ
 カーター米国防長官は昨年12月のマケイン上院軍事委員長あての書簡で、航行の自由作戦には領海における無害通航権の確保と、公海における航行の自由の確保の両方が含まれると説明した。前回と今回の作戦は無害通航権の行使として行われたから、次回は、公海における航行の自由を明確に打ち出す作戦にしてほしい。その候補地は、スプラトリー諸島のミスチーフ礁周辺である。
 ミスチーフ礁はスビ礁と同じく人工島が建設された低潮高地だが、スビ礁と違って付近に領海が設定される別の島は存在しない。米軍艦はミスチーフ礁周辺を、情報収集の禁止など制約の多い無害通航でなく、公海で許される自由な航行をすることにより、人工島建設で領海は拡大されないとの強いメッセージを中国に送ることができる。(了)