公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第357回・特別版】国際情報戦で遅れをとるな

太田文雄 / 2016.02.08 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 1月下旬、米国各地で「中国の海洋拡張」を発表テーマとして講演旅行をしてきた。日本政府の国際情報発信が不十分であり、海外にいる日本人はそれを不満に思っていることを痛感した。

 ●誹謗中傷に直ちに反論を
 ペンシルベニア大学では、約30名の聴衆に対して発表を約20分間行い、質疑応答に入った。聴衆の中にフィラデルフィア在住の日本人技術者がおり、中国の情報戦について質問してきた。彼は「日本政府はイスラエル政府が行っている情報戦を見習うべきだ」として、次のように語った。
 「イスラエルの大使館や領事館は、どんな小さなメディアに対しても、自国への誹謗中傷があると直ちに反論を寄稿している。その点、日本の情報発信は不十分である。大使館や領事館が適時かつ積極的に情報発信を行わないと、慰安婦イコール性奴隷のような嘘が米社会でまかり通ってしまう。講演を聴く者は数十人だが、米主要メディアには数十万人の読者がいる」
 カリフォルニア大学バークレー校では、質疑応答の中で慰安婦問題について質問が出たので、連合国が唯一発信したビルマ(現ミャンマー)における朝鮮人慰安婦への捕虜尋問報告電(1944年8月)をパワーポイントで示して説明した。これら慰安婦は、①当時の一兵卒の約50倍の給料を貰っていた②朝鮮半島にときどき帰省できるなど、豪勢な生活を送っていた③気に入った兵士と結婚できた④酒に酔った兵士を拒絶できた―と証言している。慰安婦は性奴隷だったというプロパガンダは事実と全く異なることを米国人参加者だけでなく韓国人博士候補者にも説明すると、彼らは初耳という顔をしていた。

 ●外務省の対外発信に疑問
 しかし、外務省がホームページで事実に基づく反論をせず、慰安婦募集の強制性を認めた平成5年の河野洋平官房長官談話などを前面に出して「日本は既に謝った」といった情報発信をしていたら、講演でいくら「性奴隷20万人」説を否定しても効果は少ない。
 少なくとも、先日の参院予算委員会で中山恭子議員(日本のこころを大切にする党)の質問に対する安倍晋三首相の答弁を即、ホームページに一問一答のような形で掲載すべきではないか。
 首相は「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった。……(昨年12月の慰安婦問題に関する日韓合意の)『軍の関与の下に』というのは(強制連行や性奴隷化に軍が関与したという意味ではなく)、慰安所は当時の軍当局の要請により設営されたものであること、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送について旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与したこと、慰安婦の募集については軍の要請を受けた業者が主にこれにあたったこと(を意味する)」と答弁したのだ。
 平成27年度の予算では約500億円の国際広報費が計上されたので、今後の活用を期待したい。(了)