公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

【第8回】核大国へ成長する中国

平松茂雄 / 2009.10.13 (火)


国基研評議員 平松茂雄

10月1日、中国の首都北京の天安門広場で、建国60周年記念の軍事パレードが盛大に挙行された。陸海空軍の各種部隊の隊員約5000人、戦車、装甲戦闘車、各種兵器・装備を搭載した車両約500両、各種戦闘機、爆撃機、ヘリコプター、空中給油機、早期警戒管制機など120余機が参加した。

軍事パレードにハイテク兵器
展示された兵器・装備で注目されたのは次の二点である。一つは、これまでパレードの主役であった大型戦車の数が少なくなり、代わって小型で軽量の陸軍、海軍陸戦隊、空軍空挺部隊、武装警察部隊などの各種装甲戦闘車百余両と、それを支援する早期警戒管制機、無人偵察機、移動式電子レーダーその他のハイテク兵器が登場したことである。もう一つは戦略核兵器で、ニューヨーク、ワシントンに届く大陸間弾道ミサイルが誇示されたことである。

これらの兵器から、中国軍はもはや満州や華北の大平原や長大な中ロ国境地域で大部隊が戦車を正面にして戦う戦闘を考えておらず、新疆・チベットなど少数民族地域や南シナ海・東シナ海など周辺海域での戦闘、台湾軍事進攻、都市ゲリラやテロとの戦いといった限定的な小規模戦争を想定していることが分かる。江沢民時代に進展した「ハイテク条件下の局部戦争」である。それを可能にしたのは、中国の戦略核ミサイル戦力の発展である。引退した江沢民前国家主席が、胡錦濤主席の隣でパレードを見たのには、そのような背景がある。

周辺地域での局地戦能力を誇示
中国は建国後の数年間に、朝鮮戦争参戦、インドシナ戦争支援、台湾海峡での紛争などの機会に、米国の核兵器による威嚇を何回も受けた。これらの経験から、当時中国の指導者であった毛沢東は、核兵器は相手を威嚇して政治目的を達成する「政治兵器」であると認識し、通常戦力の近代化を後回しにし、国家の総力を挙げて核兵器とその運搬手段であるミサイルの開発に集中してきた。

今回の軍事パレードは、その時から五十余年を経て、中国が核ミサイルの威嚇の下で、周辺地域・海域で各種の局地的限定的な通常戦争を遂行する能力を保有し始めていることを示している。

わが国には、中国の軍事力は時代遅れで恐れることはないとの見方があるが、それは「米国の核の傘」があればのことである。「米国の核の傘」がなければ、日本は間違いなく「中国の核の威嚇」に晒されることになろう。その時、日本はどうするのか。真面目に考える必要があることをこのパレードは示している。(了)
 

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第8回:核大国へ成長する中国(平松茂雄)