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黒澤聖二

【第412回】「駆け付け警護」の本質的議論の欠如を憂う

黒澤聖二 / 2016.12.12 (月)


国基研事務局長 黒澤聖二

 

 南スーダン国連平和維持活動(UNMISS)に参加する陸上自衛隊の部隊が、先月の閣議決定に基づき、駆け付け警護の任務を付与されて12月12日から活動を開始する。
 政府は部隊の近くにいるNGO関係者等から救援要請があれば駆け付けて救助するなどという運用方針を示したが、その内容を見てみると、誰もが当然と認める道徳的行為に対し、ようやく国としてのお墨付きを与えたということである。
 運用方針には同時に、過去の苦い経験も記されている。すなわち、東ティモールやザイール(現コンゴ民主共和国)に派遣されていた時にも、自衛隊はできる範囲で現場に駆け付け、邦人を安全な場所まで輸送することがあったとある。つまり、現場の隊員の献身と創意工夫に委ねていたのであり、一歩間違えば任務外の活動ということで、当該隊員は命令違反で処罰されかねない状況だったのだ。それを思えば、今度の任務付与は遅きに失したとはいえ、妥当な措置だろう。しかし、自衛隊が国内法上、軍隊でないことから生ずる問題を幾つか指摘せざるを得ない。

 ●武器使用に警官並みの制約
 新たな任務が付与されても、南スーダン派遣の自衛隊は施設科部隊(工兵)であり、他国の歩兵部隊が救援を求めてくるとは想定しにくいが、仮に丸腰のNGO関係者が暴徒に包囲され助けを求めてきたとする。その際、自衛隊員の武器使用には、警職法上の「比例原則」(武器使用は必要最小限でなければならないという原則)と、正当防衛や緊急避難に該当しなければ人に危害を与えてはならないという制約が重くのしかかる。つまり、警告射撃さえちゅうちょするような、抑制的で自己犠牲的な対応となることは想像に難くない。
 隊員が撃つべき時に躊躇なく撃てるためには、警職法ではなく、国連平和維持活動(PKO)に参加する他国軍隊に適用される共通の武器使用基準をそのまま自衛隊に適用することである。

 ●誤射で国際訴追される可能性も
 憂うべき問題は他にもある。普通、軍隊には軍刑法があり、違法行為は軍事裁判(軍法会議)にかけられる。しかし、軍隊ではない自衛隊の隊員は一般の刑法で裁かれる。刑法第3条(国外犯規定)により、外国での犯罪は殺人、傷害などが法定されるが、過失による場合は処罰の対象外だ。つまり、現地の人を誤射しても、わが国の刑事事件とはならない。
 一方、国連と南スーダン政府が結んだUNMISS地位協定により、UNMISS要員は現地の刑事管轄権から免除されるので、過失で現地の人を殺傷した自衛隊員を南スーダンの裁判所も裁けない。そうなると、わが国も締約国である国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程に基づき、犯罪を誰も処理できないからとして、ICCに訴追される可能性を完全に排除することはできない。
 新しい任務には、過去のPKOと違い相応のリスクが伴う。だからこそ、軍事組織である自衛隊の派遣が必要なのだ。PKO要員の日当の増額もいいが、政府には、自衛隊が国内法上軍隊でないところに問題の本質があるという議論に切り込む勇気を強く期待したい。(了)