トランプ次期米大統領が石油大手エクソンモービルのレックス・ティラーソン最高経営責任者(CEO)兼会長を国務長官に指名することを決め、来年1月に発足する新政権の外交・安全保障関係の陣容が固まった。トランプ氏は「一つの中国」原則に縛られないと表明するなど、従来の政策の枠組みを逸脱する挑発的発言を続けており、新たなチームが米外交を安定的に運用できるか先行きは不透明である。
新政権の顔触れを見てほぼ確実に言えそうなのは、冷戦後の世界秩序に挑戦する姿勢を近年強めてきたロシアの主導でこれからの国際関係が動くことを米国は容認または追認しかねないことだ。
●次期国務長官はプーチン大統領の盟友
国務長官に起用されるティラーソン氏は、石油開発事業を通じてプーチン・ロシア大統領と20年以上の交流があり、「キッシンジャー元国務長官を除けば、プーチン大統領との付き合いが恐らく最も長い米国人」(ハムレ米戦略国際問題研究所所長)といわれる。2013年にロシアから友好勲章をもらい、2014年にはロシアのクリミア併合を理由とする米欧の対ロシア経済制裁に公然と反対した。
国家安全保障担当の大統領補佐官に決まったマイケル・フリン元国防情報局長官(退役陸軍中将)は今年7月に出版した共著で、イスラム過激派がロシア、中国、北朝鮮などと手を組んで米国との世界戦争を戦っているという独自の世界観を披露した。同時に、ロシアがイスラム過激派の脅威に目覚めるなら、パートナーになり得るとも指摘し、ロシアとの協力を唱えた。この立場は、シリアに本拠を構えるイスラム過激組織「イスラム国」を打倒するため、シリアのアサド政権や同政権を支えるロシアと連携すべきだとするトランプ氏の主張と一致する。
次期政権要人の中では、国防長官に指名されたジェームズ・マティス退役海兵隊大将が「大半の米軍高官と同じく、プーチン大統領に健全な疑念を持つ」(ニューヨーク・タイムズ)とされる。しかし、プーチン大統領の剛腕ぶりに親近感を抱くトランプ氏との隔たりは大きそうで、次期政権の中でどれだけ発言力を維持できるか分からない。
●欧州でも融和の動き
米国主導の国際秩序はこのところ、東欧や中東で軍事力を使って旧ソ連時代の勢力圏回復を試みるロシア、南シナ海で人工島の軍事要塞化を進める中国、世界各地で国際テロを実行するイスラム過激組織の挑戦を受けてきた。このうちロシアと融和する方向にトランプ政権が動きそうなのだ。
米国だけではない。欧州でも同様な政治現象が起きており、例えば来年春の仏大統領選挙で極右のマリーヌ・ルペン氏と激突する中道右派統一候補フランソワ・フィヨン元首相も、対ロシア制裁解除やイスラム過激派との戦いにおけるロシアとの連携を唱えている。
国際情勢はロシア有利に動いているので、プーチン大統領が北方領土問題で日本に大きく譲歩する誘因は乏しい。安倍晋三首相はじっくり腰を据えるしかなさそうだ。(了)