国基研企画委員・主任研究員 冨山泰
鳩山由紀夫首相の「東アジア共同体」構想が不評である。どのような共同体を目指すのかあいまいなまま観念が先行し、関係国の不信を増幅させている。このような構想を推進することは、日本の国益に反する。
けん制する関係国
米国が東アジア共同体構想への批判を強めているのは、インド洋における自衛隊の給油活動の延長拒否、米軍普天間飛行場の移設合意の履行先送りと並んで、この構想が米国と距離を置く鳩山政権の政策の一環と判断したためだ。民主党が圧勝した8月末の総選挙直後、同党の反米的な姿勢には「我慢が肝心」とおうように構えていたキャンベル国務次官補でさえ、10月半ばの記者会見(北京)で早くも堪忍袋の緒が切れたかのように、共同体構想からの「米国外し」を批判した。
鳩山首相が共同体づくりのパートナーと仰ぐ中国でさえ、「東アジアでは既存のメカニズムの協力が進んでおり、積み重ねが大事だ」(温家宝首相)と慎重で、鳩山首相の前のめりの姿勢と一線を画している。中国は自らが主導権を握る「東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日中韓)」の枠組みによる地域統合にかねて積極的だったが、これにインド、オーストラリア、ニュージーランドを加えて共同体を構成しようとする日本の構想には関心がない。鳩山首相がそれを知らないで中国に秋波を送っているとすれば、こっけいである。
東南アジアの小国連合体であるASEANは、大国の思惑に振り回されることに元来警戒的で、東アジア地域のいかなる共同体構想も「運転席」にはASEANが座るべきだとの立場で一貫している。従って、「日中韓が核となる」(鳩山首相)とされる構想には違和感があるはずだ。
対中警戒心欠く首相
鳩山首相の東アジア共同体構想は、同盟国米国をないがしろにするだけでなく、共産党一党独裁の中国と共同体を形成しようとするところに大きな問題がある。共同体の形成は、欧州連合(EU)にみられるように、域外との共通関税の設定、共通通貨の導入など、国家主権の一部を共同体へ移管することを意味する。日本が政治体制を異にする中国とそのような共同体を形成することは、とても考えられない。
さらに、中国は2050年ごろに「中華民族の偉大な復興」を実現することを国家戦略に掲げる国家だ。そうした国家と共同体を形成することは中国中心の「華夷秩序」に日本が組み込まれる危険をはらむ。そうした警戒心を欠いた共同体構想はお蔵入りにすべきだ。(了)
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第11回:東アジア共同体構想をお蔵入りにせよ(冨山泰)