衆院解散に打って出た安倍晋三首相の念頭にあるのは、北朝鮮の核・ミサイル開発という未曽有の脅威に直面しながら、日本人の危機感は全体として極めて低いとの認識にほかならない。日本国民のかなりの部分は朝鮮半島情勢の緊迫などどこ吹く風だ。
残念ながら今の憲法も、その基になったメモ書きのマッカーサー・ノートも、日本人から「独立自存」の精神を奪うところに眼目があった。仮に外国からの軍事攻撃があっても、最後には米軍が日本を守ってくれるという依存心を大方の日本人は抱いていないだろうか。
●もはや通用しない土下座の誓い
広島、長崎が一般市民を対象とする原爆攻撃に遭った。取り得る対応は二つある。一つは、日本が同じ核兵器を持ち、次に攻撃する国には同じ攻撃を与える決意を固めることだ。もう一つは、全て日本人が悪かったからこのような被害を受けたのであり、二度と過ちは繰り返しませんと土下座して誓うことだ。日本は後者を選び、原爆死没者慰霊碑に詫び状を書いてしまった。こんな対応が通用しない国際情勢が迫ってきた。
朝鮮半島の危機が一つの決着に向かって動いている。制裁措置が効いてきて、北朝鮮内部に政権崩壊の兆しが出てくるのか。あるいは何かのきっかけで半島が火を噴くのか。いずれにしても、中長期的に見ると、この半島には核を持つ統一国家が生まれるだろう。
ロシア、中国、統一朝鮮、インド、パキスタン、米国といった核保有国の間にあって、日本があっけらかんと一国平和主義を謳歌できるのか。核の恫喝にあえぎながら、周辺国の顔色をうかがいつつ生活する屈辱の時代に日本は入っていくのではないか。
●孤立主義者の影
トランプ米大統領が影響を受けている米国の有名な孤立主義者パトリック・ブキャナン氏は、韓国の国民総生産(GDP)は北朝鮮の40倍で、日本は100倍、軍事費は北朝鮮がGDPの25%、韓国は2.6%、日本は1%以下という数字を挙げて、「中国と北朝鮮の脅威に米国が対応する必要はなく、日韓両国に責任を負わせるべきだ」と主張している。
トランプ大統領がこれを政策にするかどうかは知らないが、根底には同じ思想が横たわっていると思う。日本国憲法を守れと叫んでやまない人たち、軍事と聞いただけで念仏のように9条の条文を唱える人たちも、ひそかに頼っているのは米国だろう。その米国が72年前のような世界のリーダーでなくなっていることに気付かぬ愚鈍さは、救いようがない。(了)