公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

櫻井よしこ

【第473回・特別版】天晴れ、高市氏の正論主張

櫻井よしこ / 2017.10.10 (火)


国基研理事長 櫻井よしこ

 

 「国会議員になって驚いたのは、起きてほしくないことは起きないという前提で議論する政治家がいたこと」。これは安倍晋三首相の側近の一人、高市早苗前総務相の言葉だ。何でも起き得るのが国際政治の現実であり、政治家はそのために常に国際情勢に正対し、予断や希望的観測を排しなければならない。それが出来ない政治家が多いという高市氏の苦言は、この瞬間の日本の現状にあてはまる。

 ●最大争点は憲法改正
 2週間足らずで投開票となる総選挙の最大の争点は、紛れもなく憲法改正である。北朝鮮をめぐる危機は高まり、朝鮮半島有事が迫っている。そのとき日本国は、北朝鮮にいる拉致被害者、韓国在住の日本人、わが国の1億2千万余の国民の命を守り得るのか。国土防衛に抜かりはないか。押し寄せる万単位の難民を保護しつつ治安を守りきれるか。
 北朝鮮に中国の影響力が及び、韓国の左傾化が進めば、南北朝鮮を隔てる38度線は南に下り、対馬がわが国の防衛ラインになる。中国の膨張的野望にわが国はより切迫した形で直面する。米国は日本防衛の責任が基本的に日本にあるという常識を提示し続けている。
 そのような状況下、現行憲法で縛られた自衛隊が国民と国土を守り抜くには大きな困難が伴う。だからこそ、安倍首相はこの選挙において国際情勢の現実を説き、憲法改正が避けて通れないことを訴えよ。最重要の点は戦力不保持を定めた9条2項の削除である。
 憲法改正発議に必要な衆参両院での3分の2の支持を確保するため、首相は9条1、2項をそのままにし、自衛隊の存在を憲法に書き込むことを提案した。憲法改正の最大の眼目が9条2項の削除にあるとき、首相提案は公明党を抱き込み、国民投票で過半数を得るための政治的大譲歩だ。
 真の憲法改正が危ぶまれるところまで妥協した安倍首相だが、山口那津男公明党代表は自衛隊の存在を憲法に書き込むのは時期尚早と言い出した。9条体制の維持が公明党の本音であり、憲法改正が如何に政治的に大きな挑戦であるかを改めて実感させる。

 ●率直な議論に期待
 その中で高市氏は「9条に自衛隊の根拠規定を加えるだけの案では、日本の安全保障上の課題が抜本的には解決され(ない)」として、率直に「反対」を表明した(『正論』11月号)。 ①首相は「安倍一強批判」に配慮する余り、長所だった「ぶれない力強さ」や「安定感」を犠牲にしている②最初から他党が賛成しやすい案にとどめることは、主権者たる国民への冒瀆ぼうとくだ―という正論を高市氏は展開する。
 氏は自民党が野党時代の2012年4月に発表した憲法改正草案から後退すべきでないとも説く。自衛権の発動をどの国にも認められている自然権と位置づけ、「国防軍」の保持を謳い、「文民統制」を明記し、領土、領海、領空と資源確保を明記したのが自民党案だ。
 天晴あっぱれ、高市氏。首相案に違和感を抱きながらも公然と反対する声が少ない中で、このような正論が主張され、その論を交えて議論が行われるとき、初めて、譲歩するにしても筋の通った譲歩となるのではないか。(了)