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湯浅博

【第480回】日米豪印の戦略的連携を進めるチャンスだ

湯浅博 / 2017.11.13 (月)


国基研企画委員 湯浅博

 

 ベトナム中部ダナンで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、「インド太平洋」戦略を掲げて巻き返しを図る米国と、「一帯一路」構想の実利で磁場を広げる中国が激突した。とくに環太平洋経済連携協定(TPP)離脱でアジア関与が疑われたトランプ米大統領は、11月10日の演説で初めて「インド太平洋」という地理的概念を多用し、経済を語りながら安全保障への関与を各国に強く意識させた。この枠組みの中で、法の支配、個人の権利、航行の自由という3原則を示し、中国による地域覇権の野望を打ち砕く意思に思えた。

 ●米大統領が「インド太平洋」強調
 トランプ大統領は、その日午前まで滞在していた北京で破格の歓待を受け、習近平中国国家主席を「ウマが合う」と持ち上げていた。それは中国から経済的譲歩を引き出し、核開発をめぐる対北朝鮮圧力の強化を狙う得意の「取引」外交である。しかし、APEC演説では一転して、中国を念頭に「製品のダンピング、通貨操作、略奪的な産業政策」を批判し、攻勢を強めた。
 APEC参加の指導者たちは、トランプ氏によるアジア関与の本気度を探っていた。小国にとっては自国の生存と繁栄のために米国が頼りにできなければ、いやでも中国の一帯一路というバンドワゴン(時流)に乗るしかない。オバマ前米政権はアジア回帰を言いながら、それに見合う行動をとらず、トランプ政権もTPP離脱で先行きに不安が残る。
 しかし、ティラーソン国務長官は10月に、民主主義国家の協力で守られる「自由で開放的なインド太平洋が望ましい」と述べ、訪問したインドでの演説で15回も「インド太平洋」というフレーズを繰り返した。トランプ大統領も10回も演説に織り込み、インドがAPEC加盟国でもないのに「世界最大の民主主義国」であることを強調してみせた。インドが中印国境で最近まで中国軍と対峙していたことを承知の上のメッセージである。

 ●背景に中国の軍拡
 もともと「インド太平洋」という概念は、安倍晋三首相が2007年にインド議会でインド洋と太平洋を結び付ける「二つの海の交わり」という演説を行って打ち出したもので、〝軍拡病〟が治らない中国を牽制する意味合いを含む。
 モディ・インド首相はこれに調子を合わせるように、東アジアを経済発展の手本とする従来の「ルック・イースト」を東アジアと戦略的なつながりを求める「アクト・イースト」に切り替え、日米印合同軍事演習に積極的に参加した。安倍首相も今年1月半ばの豪州・アジア歴訪で、インド太平洋に安全保障の枠組みを構築することを視野に入れていた。安倍首相は2月の訪米で、トランプ大統領には言うなれば「アクト・ウエスト」を求めていたのである。
 背景にあるのは中国海軍の急速な増強である。問題は、トランプ演説のインド太平洋戦略はまだ漠然としていて、中身が練れていないことだ。安倍政権は同盟国の米国を押し立て、「日米豪印戦略対話」の設置に向けて動くチャンスである。この枠組みが、インド太平洋戦略における多国間防衛体制の礎となり得るからだ。(了)