トランプ米大統領のあら探しを最初から虎視眈々と狙ってきたリベラル系新聞の酷評は割り引いて読まなければならないとしても、今回のアジア大旅行は米国本来の指導性に欠けていた。
中国訪問の大きな目玉は、①米中貿易の不均衡を是正する②北朝鮮の核・ミサイル実験をやめさせるため中国により重要な役割を担わせる―の2点だったが、前者はひどい失敗だった。11月19日付の産経新聞が「米中商談、勝者は中国」の見出しで、2535億ドル(約28兆4000億円)の「厚化粧」(数字のかさ上げ)を暴いていた。後者に関しては、トランプ大統領帰国後の17日に中国共産党中央対外連絡部の宋濤部長が平壌入りし、北朝鮮要人と会った。何らかの含みを持った行動かどうか、現時点での評価は控えておこう。
●勢いのある中国
欧米の新聞を調べていて気づくのは、得失を論じるよりも、指導者の性格、存在感の有無、国としての勢いがあるかどうかなどの背景の下で、米中会談を分析している記事が多いことだ。米中両国を経済力、軍事力、政治力、情報力、技術力などで比較すれば、米国は圧倒的な優位を維持しているが、勢いを考えてみる必要がある。
米国主導の世界銀行や国際通貨基金(IMF)、日本主導のアジア開発銀行の向こうを張るように、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)や、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国の新興5カ国)主導の新開発銀行が中国の現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の裏付けとして設立されていく事実だけを取っても、中国は確かに勢いに乗っている。中国共産党大会を終えて向こう5年の任期を確保した習近平総書記(国家主席)が一党独裁体制の下で権力を振るった時の「効率」も考えておいた方がいい。
●日本に国難が迫る
米国と中国を比較してどちらが戦略的か。トランプ大統領は今回のアジア5カ国訪問で「自由で開放的なインド太平洋が望ましい」と繰り返し述べた。米中両国に挟まれた形で存在する国々にとっては、一見、願ってもない提案だ。しかし、ワシントン・ポスト紙社説は漠然とした意気込みにすぎないと皮肉った(11月10日)。スーザン・ライス元大統領補佐官(国家安全保障担当)は「正しく(外交が)行われていたなら、波乱の多かったトランプ政権のスタートをアジア訪問で安定させられただろうに。この訪問はそれどころか米国の孤立と退却を進行させ、新たに名付けられた『インド太平洋』のリーダーシップを銀の皿に盛って中国に手渡してしまった」とニューヨーク・タイムズ紙に書いた(11月13日)。
こうしたコメントをリベラル系新聞や民主党政権元高官の寝言と切り捨てられるか。日米両国が充実した内容の「インド太平洋」戦略を共同で構築できなければ、米中のはざまの日本には国難が迫る。(了)