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田久保忠衛

【第487回】同盟国の研究には、好意的かつ客観性が必要だ

田久保忠衛 / 2017.12.25 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 今年を振り返って目立った国際情勢の特徴を挙げよと言われたら、無謀な核・ミサイル実験を続けてきた北朝鮮、「危険な台頭」をためらおうともしない中国、大統領の言動が予測不可能な米国の三カ国ということになろうか。北朝鮮と中国については日本における研究もかなり進んでいるが、同盟国として誰もがなじんでいるはずのトランプ政権の性格はいまだ正確に分析されていない。トランプ賛成、反対で割り切れないような複雑な変化が米国それに欧州各国で起こっているのだ。

 ●ブレジンスキーが警告したこと
 ちょうど20年前のこと、ブレジンスキー米大統領元補佐官はその著『巨大な将棋盤』の中で、民主的ルールにあてはまらない中国がユーラシア大陸に覇を唱えるのを防がなければ世界は危険に逢着すると警告し、同時に外交、軍事の両面で米国のお伺いをたてなくてはならない日本は「事実上の米国の被保護国」だとけなした。癇に障るが、事実である。しかし、プレジンスキー氏は、いま自国にトランプ政権が誕生し、「米国第一主義」を貫き通そうとして生じている諸々の軋轢を予想しただろうか。
 トランプ大統領が登場するまでの国際秩序には、目的と手段がはっきりしていたように思われる。欧州を中心とした戦後の荒廃を救い、そしてすでに爪と牙を剥き始めていた共産主義に対抗するという二つの目的のために、トルーマン大統領の下でアチソン国務長官は貿易の自由化と西欧民主主義の拡大を実行に移した。ヒト、モノ、カネの自由な流れがグローバリゼーションを生むのはむしろ当然だろう。この間に共産主義は崩壊してしまった。

 ●米政権の真意とは何か
 グローバリゼーションにNOの声が上がったのは欧州が先だった。ヒトの移動が自由になったからといってテロまで自由化されてはたまらない。不法移民、難民反対、なんでもかんでも国際化反対の声は最初欧州で、次いで米国に上がり、トランプ政権を生んだ。リベラル系メディアは「極右・ポピュリスト政党」と呼んだが、核心を衝いているかどうか。トランプ大統領がポピュリストだったら「米国第一主義」を叫び続けないのではないか。
 米政権の真意を窺う唯一の材料は12月18日に公表された「国家安全保障戦略」だ。敵味方がはっきりしなかった戦略が、非国家的アクター(ジハードなど)、修正主義勢力(中国、ロシア)、ならず者独裁国家(イラン、北朝鮮)に分けられ「力による平和」を誇示したのにはホッとするが、経済の分野で強烈に主張しているのは「米国第一主義」だ。つまり同盟諸国は安全面で米国と結び、通商面で対立するという局面に入る。
 同盟国に対しては好意的な客観性を保って研究したい。(了)