トランプ米大統領は、25日の米CNBCテレビのインタビューに続き、26日にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)の演説で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への復帰へ向けて「交渉を検討する」と明言し、周囲を驚かせた。ただし、交渉項目やスケジュール等については言及しておらず、その真意は不透明である。
同時に、トランプ大統領は「米国はすべての国と互恵的な二国間貿易協定を交渉する用意がある。これにはTPPの参加国も含まれる」と発言している。日本は、自ら主導したTPP11(米国を除く11カ国が参加するTPP)の実現が滞ることなく、参加国の足並みを揃えて3月8日のチリでの署名式に臨めるように万全を期す必要がある。
●迷走するトランプ政権の通商政策
「米国第一主義」を掲げたトランプ政権は、自由経済の拡大を主導してきた米国の超党派的な通商政策を180度転換させたが、トランプ政権の通商政策は今のところ成果を上げるどころか、以下のように混迷を深めている。
一、TPP離脱により、ブッシュ政権(2代目)下で始まったグローバルな通商ルールを構築する交渉の主導権を失い、米国抜きのTPP11が進展。
一、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉の停滞。
一、鉄鋼輸入製品の米国の安全保障に及ぼす影響調査の遅れと結果の未公表。
一、世界貿易機関(WTO)の紛争解決委員会の軽視
一、「法人税の国境調整」の導入を見送り
結果として、当初懸念されたほど通商政策に関しては強硬でなかったともいえる。ただし、国内重視の内向き姿勢は、習近平中国国家主席(共産党総書記)に、昨年のダボス会議の基調講演で「反グローバル化」及び「保護主義」批判の発言を許す事態を招いた。
●「米国第一」からの転換は不透明
もう一つ周囲を驚かせたのは、トランプ政権がダボス会議直前の22日、太陽光パネルと洗濯機の輸入急増に対応するため、主に中国と韓国の企業を対象として、米通商法201条に基づく緊急輸入制限(セーフガード)を2月7日付で実施すると発表したことである。
これは、明らかに国内製造業者の保護を目指すトランプ大統領の「米国第一」の通商政策に沿った措置である。さらに、トランプ政権は、中国に進出する米国企業が中国側へ技術移転を強要されているとして、知的財産侵害に対して通商法301条に基づく制裁を視野に調査を進めており、1月30日の一般教書演説で対応策を述べると表明している。
そもそもTPPは、アジア太平洋地域の経済統合から米国が排除されることを回避し、中国の経済覇権拡大を抑制するという戦略的重要性を持っていた。その意味では、米国にとってTPP復帰は新たな対中強硬姿勢と整合するが、不安定な米国の政治情勢への配慮からTPP再交渉で強硬な要求を突き付けてくることも予想される。
日本としては、米国がTPPに復帰しても、またしなくても、TPP11を早期に実現し、参加国の拡大を図ることが、現在及び将来にわたる最善策である。(了)