公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第498回】韓国軍人46人殺害者を厚遇した文政権

西岡力 / 2018.02.26 (月)


国基研企画委員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 「文在寅政権は大局的見地で金英哲訪問を受け入れてほしいと言った。しかし、46人も殺しておいて、その犯行を認めもしない殺人者を文政権が歓迎するなら、韓国のために犠牲になった者の名誉は踏みにじられる」―。2010年に韓国海軍の軍艦「天安」への攻撃で犠牲になった乗員の遺族の言葉だ。

 ●一行に軍用道路開放
 2月25日午前9時53分ごろ、金英哲・朝鮮労働党対南工作担当副委員長兼統一戦線事業部長が鉄道で韓国京畿道坡州市都羅山南北出入事務所に到着した。同事務所からソウルへ向かうには、臨津江に架かる統一大橋を渡らなければならない。
 24日午後6時半ごろから、統一大橋の南端、自由路の車道に韓国の保守野党・自由韓国党の議員や、天安艦事件の遺族、支持者ら数千人が座り込み、「天安艦爆沈の主犯、金英哲訪問阻止」を叫んでいた。この座り込みは「金英哲が来たら国軍は緊急逮捕するか射殺しなければならない」と会見で語っていた自由韓国党の金聖泰院内総務らが前日、電撃的に決めたものだった。
 ところが文在寅政権は、金英哲氏一行を軍用道路で迂回通行させた。バスは韓国軍作戦地域内にある軍用道路を東に迂回し、やはり軍用のチョンジン橋を渡ってソウルへ向かった。その上、一行は高速鉄道が本来とまらない徳沼駅から特別列車に乗り込んだ。平昌五輪閉会式後、再び特別列車で同駅に戻り、ホテルに入った。そのため、高速鉄道のダイヤは10分ずつ遅れが出たという。(迂回路の地図が以下の朝鮮日報ネット記事にある。
http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2018/02/26/2018022600249.html?related_all
 文在寅大統領は平昌で金英哲氏らとなんと1時間も面会した。報道陣に一切公開しない秘密面会だった。内容も書面で公表されただけで、写真も映像もない。面会で大統領は、北朝鮮の核ミサイル問題にも、天安艦攻撃にも言及しなかった。ただ、「南北関係の改善と朝鮮半島問題の本質的な解決のためにも、早い時期に米朝対話を開催すべきだ」と伝えた。金英哲氏は「米国との対話を行う十分な用意がある」と答えたという。文大統領は五輪閉会式会場で金英哲氏と握手した。韓国の統一部長官が一行を夕食でもてなした。

 ●連邦制への出発点?
 自由韓国党の洪準杓代表は、韓国の体制の危機だと次のように語った。
 「(文在寅政権は)主敵の首魁に極秘で軍用道路も開放することさえためらわない親北左派政権だ。(北朝鮮の南北統一案である)低い段階の連邦制へ向かう出発点に立ったと判断される。…(文政権は)いよいよ本質を明らかにし始めた。次は憲法から自由を削除して社会主義的に体制を変更し、在韓米軍撤収、国家保安法廃止、南北連邦制導入に韓国社会を引っ張っていこうとするはずだ。私たち自由韓国党は自由大韓民国を守る最後の砦だ」
 朝鮮日報、東亜日報など保守系新聞も金英哲氏の訪問受け入れでは文政権を激しく批判している。韓国の保守派が今後、どのような戦いをするか注目したい。(了)