公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

冨山泰

【第503回】日米の対北朝鮮政策一致が必要

冨山泰 / 2018.03.19 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 米国のトランプ大統領が先週、ティラーソン国務長官を解任した。5月までに開かれそうな初の米朝首脳会談を控えて、米外交の要である国務長官の首をすげ替えることが対北朝鮮政策にどういう影響を与えるか予測し難く、4月に訪米を予定する安倍晋三首相がトランプ大統領と北朝鮮問題への対応を擦り合わせることが重要になってくる。

 ●国務長官解任が示す不安定政権
 トランプ大統領が一時は能力を見込んで起用したはずの政府高官をいとも簡単に切り捨てることは、過去1年間に何度も繰り返されたから驚きはしない。しかし、これまで米国では、政権要人の多くが大統領の1期4年間は任務を全うするのが普通で、トランプ大統領のように頻繁に閣僚、大統領補佐官クラスを入れ替えるのは異常であり、政権の不安定さを浮き彫りにする。
 とりわけ今回のティラーソン長官解任は、米朝首脳会談の開催がトランプ大統領の即断で決まり、国務省が準備を始めた矢先のトップ更迭である。そもそも国務省はトランプ政権の下で、予算の大幅削減とリストラの進行で士気が低下し、人材の流出や幹部人事の遅れが目立っていた。朝鮮半島情勢との絡みでは、国務次官補(東アジア太平洋担当)は上院の承認をいまだに得られず、駐韓大使も決まっていない。混迷に輪をかける長官の解任で、今後の米外交に対する心配が増幅される。

 ●ポンペオ氏は金体制転換も視野に?
 トランプ外交の特徴を「米国第一」派と国際協調派のせめぎ合いとしてとらえるならば、米国に民主主義世界のリーダーとしての役割を引き続き果たすことを望む立場からは、国際協調派と目されるティラーソン氏の退任は残念である。また、ティラーソン氏は安倍首相のインド太平洋戦略をトランプ政権の先頭に立って受け入れ、首相が重視する日米豪印4カ国の連携強化を後押ししてきた。その意味では、日本は理解者の1人を失った。
 しかし、新たに国務長官に指名されたマイク・ポンペオ中央情報局(CIA)長官(元下院議員)は、北朝鮮の核計画を外交的手段で放棄させられない場合に金正恩体制の転換を図ることを示唆したこともあり、対北朝鮮強硬派と目される。対話重視だったティラーソン氏よりポンペオ氏の方が、対北朝鮮政策の波長は日本に合うかもしれない。
 いずれにしても、北朝鮮が非核化へ向けた具体的で検証可能な行動を取るまで、北朝鮮への圧力を緩めないようトランプ政権に強く働き掛けることが、米朝首脳会談を前にした日本の役割となる。トランプ大統領と来月会談する安倍首相の主たる仕事はそれである。米朝関係の進展で拉致問題が置き去りにされないように確保することも重要だ。河野太郎外相はポンペオ氏と意思を通じ合える関係を早急に築くことが必要となる。(了)