公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

島田洋一

【第504回】ボルトン補佐官の起用と日本

島田洋一 / 2018.03.26 (月)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 ジョン・ボルトン元米国連大使が4月9日付で大統領補佐官(国家安全保障担当)に就任する。ボルトン氏とは過去に6、7回面談したが、気さくでユーモアを解すると同時に、頭脳明晰めいせきで正義感が強い。一度、「あなたのようなレーガン保守は」と言いかけたところ、同氏はさえぎって、「私は高校時代、すなわちレーガンがまだ民主党員だった頃から、保守派の運動に携わってきた。私の方がレーガンより先輩だ」と述べた。確かに生粋の保守派と言える。

 ●北の欺瞞許さぬ強硬派
 「北朝鮮が嘘をついているとなぜ分かるのか? 彼らの唇が動いているからだ」。ボルトン氏が好むジョークである。その通り、北の「約束」や「申告」はすべて欺瞞ぎまんと見ておかねばならない。同氏は、北の非核化には「リビア方式」しかないと語る。
 2003年12月、地中に潜んでいたイラクのサダム・フセイン元大統領が米軍に拘束された3日後、リビアの最高権力者カダフィ大佐は大量破壊兵器放棄の意思を明らかにした。米中央情報局(CIA)、英秘密情報部(MI6)要員を含む米英の作業班がリビア入りし、核兵器関連物資、スカッドCミサイル、関係書類を大量に国外へ搬出した。化学兵器用物質はリビア国内で、米英立ち会いの下、処分された。米関係者によると、疑惑施設への立ち入り要求をリビア側は全て受け入れたという。
 北朝鮮は、米朝首脳会談に向けた「実務者協議」に米側を誘い出し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実戦配備や、核兵器の材料となるプルトニウムや濃縮ウランの製造を「凍結」することなどをカードに、制裁緩和を引き出しつつ、裏で核ミサイル開発を加速させるという作戦を描いていたであろう。ボルトン氏の安保補佐官起用で、米側がそうした作戦に乗せられる可能性は更に減ったと言える。
 常識的に見て、北朝鮮が「リビア方式」の非核化を受け入れる可能性は低い。ボルトン氏はこれまで、北が核ミサイルを実戦配備する前に軍事オプションを発動して脅威を除去すべきだとの意見を繰り返し公にしてきた。最終決定を下すのは大統領だが、米朝首脳会談が決裂あるいは流れた場合、軍事的緊張は増すだろう。

 ●早急に有事態勢を整えよ
 共同電によると、今月訪米した河野太郎外相は、米朝首脳会談開催の条件に、日本を射程に入れる中距離弾道ミサイルの放棄や日本人拉致問題の解決も含めるよう要請した。4月中旬に訪米予定の安倍晋三首相も同じ考えをトランプ大統領に伝える見通しという。
 正しい立場である。ただし米側が日本の要請を入れて条件を強めれば、その分、首脳会談がつぶれる可能性は高まる。安倍首相は「全ての選択肢がテーブルの上にあるというトランプ大統領の立場を一貫して支持する」、すなわち軍事解決も含めて支持するとの立場を明確にしてきた。日本の国益を損なう妥協はしないよう米側に求める以上、その結果にも責任を持たねばならない。米国と共に戦う態勢を着実かつ速やかに整える必要がある。(了)