公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

大岩雄次郎

【第507回】日本の主導でWTO活性化を

大岩雄次郎 / 2018.04.09 (月)


国基研企画委員・東京国際大学教授 大岩雄次郎

 

 米国と中国の貿易摩擦は、双方の世界貿易機関(WTO)提訴に発展し、既に株式市場をいたずらに混乱させ、世界経済不安定のリスクを高めている。トランプ政権の米国第一主義が世界各国の保護主義や内向き志向を助長する中、その流れを押し戻し、自由で公正な通商ルールを世界に広げるには、WTOを再活性化することが不可欠である。日本のリーダーシップが問われる。
 
 ●中国の知財権侵害を許すな
 米政府が幅広い輸入関税を課せば、米国で原材料コストを増加させ、企業の国際競争力を弱めるだけでなく、物価を上昇させ、個人消費の抑制要因になる。さらに、相手国の報復措置を招き、国際貿易を縮小させる。その結果、米国経済も縮小のリスクを負う。にもかかわらず、米政府は一歩も引かない姿勢を見せている。
 しかし同時に、米政府は、まだWTO提訴後の第一段階の協議段階にあることを強調する。11月の中間選挙を見据えて、輸入関税を貿易交渉の材料にして相手の譲歩を引き出すことで、実績作りをしようとの意図が透けて見える。ただし、この瀬戸際外交の思惑が外れた時の代償は計り知れないほど大きい。
 WTOを軽視し、国際協議よりも国内法を優先するトランプ政権に、日本は是々非々の対応をすることが求められる。日本への輸入制限に対してはWTO違反で提訴すべきである。
 また、米政府が中国の知的財産権侵害をWTOに提訴したことに関連し、5日、日本と欧州連合(EU)は第三者としてWTOの紛争解決手続きに参加する意向を示した。しかし、海外企業に技術移転を迫る中国の産業政策への対応は先進国共通の課題であり、日本も中国のこの知的財産権侵害をWTOに独自に提訴することを検討すべきである。

 ●米の行動是正は同盟国の責務
 WTOの現行体制に多くの問題があることは明らかである。米通商代表部のライトハイザー代表は中国を念頭に「途上国を自称し、例外規定を享受している」と批判しており、WTOルールに従っても、中国などの不公正な貿易慣行が容易には改まらない現実がある。
 米国が改革の必要性を主張することは当然であるが、紛争解決手続きの控訴審に当たる上級委員会の選出に反対し、実質的に機能不全に追い込むような行為は容認すべきでない。164の国と地域が加盟し、紛争解決制度を備えるWTOの存在意義は大きい。この認識を共有し、WTO体制を強化することが肝要である。
 日本はWTOとの共同声明(2017年5月22日)で、自由貿易の旗手たることを約している。今月の日米首脳会談では、米国がWTOに背を向けないよう粘り強く働きかけるべきである。経済問題だけでなく、北朝鮮の非核化や拉致問題も含めて、自由で公正な国際ルールに基づく一貫性のある主張をすることが、多くの国の支持を増やし、日本の発言力を高める。米国の行動を正す気概が同盟国日本に求められる。(了)