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太田文雄

【第510回・特別版】米軍高官証言に見る日本への期待

太田文雄 / 2018.04.23 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 日本の野党やメディアが財務事務次官のセクハラ問題や野党議員に対する自衛隊員の暴言問題で沸いていた先週、米議会の公聴会では国際軍事情勢に重要な影響を与える将官2人の証言があった。

 ●「強い日本」望む次期太平洋軍司令官
 一人は太平洋軍司令官に指名されたフィリップ・デービッドソン海軍大将で、筆者が米海軍兵学校交換教官に任じていた時の学生である。
 17日、デービッドソン大将は日本に関して「日米同盟とインド太平洋地域の安全保障にとって非常に重要なのは、駐留米軍経費の分担増加よりも、現代の脅威環境において(自衛隊の)能力と可能性を高めるために追加資金を投じることだ」と述べた。
 これまで筆者は多くの米軍幹部と接してきたが、日本が打撃力を持つことに関して「打撃力は米国が持つから日本は防御的な対潜戦等に集中してくれ」といったいわゆる「弱い日本」期待派が多かったので、今回のように「強い日本」を期待して日本に防衛機能強化を公式に求めた例は寡聞にして知らない。
 デービッドソン大将は同時に「仮に将来、中国と戦うような事態になっても確実に勝利できる保証はない」とも述べ、近年の中国軍の凄まじい増強ぶりを強調した。

 ●全能でなくなってきた米軍
 もう1人はミサイル防衛局長官のサミュエル・グリーブス空軍中将で、同じ17日、中国やロシアが間もなく配備する極超音速ミサイルについて、現在のミサイル防衛システムでは探知できず、宇宙配備型のセンサー導入が急務であると述べた。
 極超音速ミサイルは、もともとは今世紀初めに米国のブッシュ政権が「全世界迅速打撃」(Prompt Global Strike)として構想を発表したが、オバマ政権時代の強制的な予算削減措置によって開発が停滞していた。この間に、サイバー等を通じてその構想と技術を盗んだ中露両国が米国に先行して開発してしまった。
 これらの議会証言から読み取れることは、中露の軍備拡張により、これまで圧倒的であった米国の軍事的優位が崩れかけており、どちらかと言えば「弱い日本」を是としてきた米国も「強い日本」に期待しつつあるという現状である。
 折しも野党が反対していた小野寺五典防衛相の訪米が実現し、20日、マティス国防長官と会談した。会談時、マティス長官の右隣に座っていたのはアジア太平洋安全保障問題担当の国防次官補ランディー・シュライバー氏で、昨年までシンクタンクであるプロジェクト2049の代表を務めていた。そのプロジェクト2049は先月末、中国人民解放軍は「短期・急激戦」(Short, Sharp War)で尖閣を襲うという報告書を出したばかりである。(了)