週末にシンガポールで、各国の国防相や軍高官が参加するアジア安全保障会議(通称シャングリラ会合)が開催された。一昨年まで副総参謀長クラスを代表として送っていた中国は、昨年から軍シンクタンク副院長クラスの派遣にとどまっている。筆者も数年前に招待されて参加したことがあったが、本会議で中国は各国から袋叩きに会うので、政策決定に影響力のある代表を出さなくなった。その代わりに、数年前から中国国内で香山フォーラムと称する独自の安全保障会議を開催して、オーストラリアのラッド元首相のような親中派を集めている。
●人を致して人に致されず
「人を致して人に致されず」―。この一節は、習近平の愛読書の『孫子の兵法』虚実篇第六にあり、「主導権を握って敵を意のままにし、敵の意のままにされるな」の意である。中国の人権活動家、劉暁波氏がノーベル平和賞を受賞するや、これに対抗して「孔子平和賞」をつくり、アジア開発銀行(ADB)の向こうを張ってアジアインフラ投資銀行(AIIB)を創設し、さらには人民元を国際通貨にしようとする動きと軌を一にしている。
シャングリラ会合では、これまで大した代表を送ってこなかったインドが、初日の夜の基調講演にモディ首相を送り込んだ。数日前の米太平洋軍司令官交代行事で、マティス国防長官が太平洋軍をインド太平洋軍に改名すると発表したが、これは2016年8月のアフリカ開発会議で安部晋三首相が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を打ち出し、太平洋とインド洋を一体ととらえる戦略思考を表明したことに符合する。インドと東南アジア、東アジアの関係を重視するモディ首相の「アクト・イースト」政策も、安倍首相のインド太平洋戦略との親和性が高い。太平洋とインド洋を繋ぐのは中国が軍事化を進めて日米や域内国と対立する南シナ海であり、日米印連帯の動きは中国として面白くないはずだ。
シャングリラ会合では、日米豪防衛相会合も開かれ、南シナ海での一方的な現状変更や緊張を高める行為に対し、国際社会が容認できないなどと声を上げるべきだとの認識で一致した。日本が主導する日米豪印の4カ国協調構想が具現化し始めていることにも注目したい。
●「相手に責任転嫁」は尖閣でも
マティス国防長官がシャングリラ会合で、中国は南シナ海で「脅迫と威圧」をかけていると批判したことに対し、中国代表の人民解放軍軍事科学院副院長の何雷中将は、米軍の航行の自由作戦こそ南シナ海の「軍事化」であるという理解不能な理由で「軍事化の原因」は米側にあると反論した。
この中国のやり方は東シナ海の尖閣問題でも同じで、「原因は日本側にある」と主張していることに思いを致さなければならない。(了)