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太田文雄

【第537回・特別版】中国海兵隊が狙う台湾・尖閣侵攻

太田文雄 / 2018.08.20 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 米国防総省は16日、中国の軍事・安全保障分野の動向に関する年次報告書を公表した。毎年春に公表されているが、今年は何故かこの時期までずれ込んだ。人民解放軍が一貫して能力を急速に向上させているという内容であるが、とりわけ2020年までに海兵隊(海軍陸戦隊)が従来の3倍に拡大するとの見積もりが出たことが注目される。現在の規模は2個旅団、約1万人であるが、それが7個旅団、3万人以上となる可能性があるという。

 ●「一路」の権益確保も
 昨年、中国は海兵隊司令部を創設した。台湾有事へ向けた兵力近代化を述べた第5章の図で、東部戦区に2個旅団、南部戦区に2個旅団がそれぞれ配備されているか、配備されるであろうことが示されており、海兵隊増強の第一の狙いは台湾への武力侵攻の準備と思われる。また南シナ海で造成した人工島群の軍事能力向上も企図しているであろう。
 北部戦区における海兵隊旅団数についての図が見当たらないが、当然、東部戦区の海兵隊旅団と共に、東シナ海における尖閣諸島奪取の際には海兵隊が尖兵となるであろう。また、紅海に面したアフリカの戦略拠点ジブチの中国軍基地に海兵隊が既に配備されていることから、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」のうち、特にインド洋から紅海に至る「一路」における海洋権益確保も企図しているものと思われる。
 概括すれば、日本列島から台湾、フィリピンに至る第一列島線内と「一路」の海洋権益確保・拡大を狙っていると分析できる。

 ●兵力30万削減に騙されるな
 習近平中国国家主席は昨年の人民解放軍改編に際し、30万人の兵力削減を宣言したが、軍縮の用意があると騙されてはならない。主として非戦闘要員を削る一方で、島しょ攻撃の尖兵となる海兵隊は増強しているからである。また習主席は「南シナ海人工島の軍事化は行わない」と言明していたが、それらが真っ赤な嘘であることが、今回の米年次報告書で改めて明らかになった。
 海兵隊は、有事の際に真っ先に攻撃に携わる部隊である。本年7月には、中国の沿岸警備隊に当たる海警局が人民解放軍の指揮下に入り、いつ尖閣諸島を奪取する作戦に出てもおかしくない情勢となりつつある。これまで中国が尖閣を奪取する際の尖兵は海上民兵の可能性が高いと考えられていたが、正規軍である海兵隊が尖兵となった場合、3000人規模の陸上自衛隊水陸機動団で奪回は難しい。こうした情勢の変化に対し、日本はいつまで「専守防衛」の防衛政策を維持するつもりなのだろうか。(了)