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太田文雄

【第600回・特別版】なぜ中国国防相を糾弾しないのか

太田文雄 / 2019.06.10 (月)


国基研企画委員兼研究員 太田文雄

 

 6日、北方領土を戦争で取り戻す趣旨の発言をした丸山穂高衆院議員(日本維新の会から除名)に対する糾弾決議が衆院で可決された。実際には、核兵器を持たない日本が核大国のロシアとの戦争で北方領土を取り戻せる可能性はゼロに等しい。
 一方、2日、シンガポールにおけるアジア安全保障会議(シャングリラ対話)で、中国の魏鳳和国防相が台湾独立の動きに対して「一戦を交えることも辞さない」と演説した。今年年頭に習近平中国国家主席も同様の発言をしており、こちらの実現性は高い。
 丸山議員に対する糾弾決議には「わが国の国益を大きく損ない」とある。台湾が中国の手に落ちた場合、わが国は海上交通路を脅かされ、日本から台湾を経てボルネオ島に至る第一列島線の要が失われるので、日本の国益を損ねること甚大である。日本の国会は何故、この魏国防相の発言を糾弾しないのか。

 ●防衛相の訪中計画は適切か
 その魏国防相に会いに行くため、岩屋毅防衛相が年内にも訪中すると報じられた。尖閣諸島周辺では、中国人民解放軍の傘下に昨年入った海警局の船が、日本による同諸島国有化(2012年)以降、最長記録となる約60日間連続で接続水域に侵入し、日本を挑発している。この時期に何故訪中なのか、と思う。
 日中の防衛担当閣僚の相互訪問は、2007年に当時の曹剛川国防相が訪日し、2009年に当時の浜田靖一防衛相が訪中しているので、次は中国側が日本を訪問する番である。その順番を覆してまで岩屋氏が訪中すれば、中国は「日本くみし易し」と、なめてかかるであろう。
 アジア安全保障会議では、岩屋氏が鄭景斗韓国国防相とにこやかに握手をする場面が報じられた。昨年末に起きた海上自衛隊P1哨戒機に対する韓国駆逐艦の射撃管制用レーダー照射事件で、韓国は一切非を認めないばかりか、日本に謝罪を要求した。岩屋氏の友好的態度から、韓国は日本にどんなことをしても大丈夫だと思ったのではないか。

 ●北京に救いの手?
 中国が民主化運動を武力で鎮圧した天安門事件から4日で30周年を迎えたが、事件後、中国の国際的孤立にいち早く救いの手を差し伸べたのが日本であった。今、米中貿易戦争で苦しい立場にある中国は日本に秋波を送っている。岩屋氏の訪中は、再び中国に手を差し伸べることにならないか。
 中国人が日本各地の土地を買い占めており、かつて総務相がこれを規制する法案を国会に提出しようとしたところ、全会一致が原則の自民党部会で「右傾化すれば票が減る」と主張してこの法案を潰したのが岩屋氏であった、と当時の総務相から直接聞いた。岩屋氏の訪中が中国に利用されないことを祈るばかりである。(了)