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西岡力

【第602回・特別版】日本は香港デモを明確に支持すべきだ

西岡力 / 2019.06.17 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 香港で中国共産党の抑圧体制下に入ることを拒否する大規模な抗議行動が起きた。香港政庁が進める「逃亡犯条例」改正案が実現すると、自由を求める香港人が中国共産党に引き渡されかねないため、人口700万人の香港で100万人以上が街頭デモに参加した。香港政庁は15日、改正案の審議の延期を決めたが、撤回ではない点や、デモを「暴動」と位置づける姿勢を変えていない点で改正案反対運動との緊張関係は続いている。

 ●米欧は自由化後押し
 中国政府は表面上、香港政庁が決めることだという姿勢をとっているが、背後で指導していることは間違いない。審議延期の決定も、米国との貿易摩擦が激化する中、香港問題で新たに米国からの圧力を受けたくないという中国政府の意向があったと見られる。
 米国の政府と議会は積極的に香港人の自由を求める動きを支持した。トランプ大統領は「デモの理由は理解できる」と発言し、国務省報道官は「基本的権利が中国の隷属支配下に置かれたくないから抗議が起きている」と述べた。議会でも、ペロシ下院議長が「(改正案は)香港の自由な社会を破壊する恐れがある」とする声明を出し、超党派上下両院議員が香港自治に関する年次報告を米国務省に義務付ける「香港人権・民主主義法案」を提出した。
 英国外相、欧州連合(EU)報道官、カナダ外相もデモを支持する発言を行っている。

 ●中国に遠慮する安倍政権と議員
 ところが、日本政府は菅義偉官房長官が「大きな関心を持って注視している」「香港が『1国2制度』の下で自由で開かれた体制を維持し、民主的に力強く発展するよう期待する」とほとんど批判的なニュアンスを含まない発言をしているだけだ。その背景について、外務省筋は「中国への配慮」だと説明している。国会議員からも、香港人の動きを支持する発信がほとんどない。
 安倍晋三首相は第1次内閣以来、「価値観外交」を標榜し続けている。香港で自由と人権が侵されるかもしれない事態が起きている時、日本政府はもっと明確な立場表明をすべきだ。また、政府より発言の自由が大きい議員こそが、中国に遠慮せず正論を披歴すべきではないか。
 第1次安倍政権時、自民党内には「価値観外交を推進する議員の会」が組織され、中国に対して歯に衣を着せず発言していた。例えば、「安倍首相が就任直後に日中首脳会談をやったが、軍事費増大など覇権拡張の疑念は払拭されず、中国は共通の価値観を持つ国ではない」(古屋圭司同会会長)、「我々が中国に包含され、中国の一つの省になる事態は避けないといけない」(中川昭一同会顧問)などである。
 米国が中国を異質の価値観を持つ体制と位置づけた今こそ、我が国国会でもこのような発言がもっと出てこないといけない。(了)