公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第604回】「第三の黒船」到来、日本は覚醒せよ

田久保忠衛 / 2019.07.01 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 月刊「正論」1月号のコラム「激流世界を読む」の拙文の最後を、「ペリーの黒船、第2次大戦の敗戦と、米国に2度運命を変えられた日本に、第3の黒船が太平洋の彼方から近づいてくるのかも知れない」で結んだが、黒船はやってきた。にもかかわらず、日本の対応は政府・与党もマスメディアの大方も見当外れだ。

 ●大統領発言は米国の総意
 トランプ米大統領が私的会話で日米安全保障条約破棄の可能性に言及した、とブルームバーグ通信が報じたのは6月25日だ。菅義偉官房長官は「報道にあるような話は全くない」といやに強く否定したが、翌26日に大統領は米FOXビジネステレビの電話インタビューで、「日本が攻撃されれば、我々は第3次世界大戦を戦うことになり、あらゆる犠牲を払っても日本を守る。しかし、米国が攻撃されても、日本はわれわれを助ける必要が全くない。彼らはソニーのテレビでその攻撃を見ていられる」と述べた。痛烈な皮肉だ。29日、大統領は20カ国・地域(G20)大阪サミット後の記者会見でも、安保条約破棄の考えを否定しつつ、条約の不公平さに改めて不満を表明した。
 ミスター・スガ、自分は冗談を言っているのではないよ、とたしなめられたことになる。官房長官は「米国から(ブルームバーグの報道内容は)米政府の立場と相いれないものだという確認を受けた」とも語っているが、トランプ大統領は「米政府」とは別の存在なのか。米政府の誰がトランプ発言を「米政府とは無関係」と日本側に伝えたのか。両国間の機微に触れる問題を官房長官が公にしていいのか。
 次元が低いのは、「安全保障で揺さぶりをかけるトランプ氏の狙いは、日米貿易交渉で自らの支持基盤にアピールする果実を得ることだと日本側はみている」(朝日新聞6月29日付朝刊)との解釈だ。トランプ発言を菅官房長官もマスメディアの大方も無視しようと懸命だが、これは米国人一般のコンセンサスであることがどうして分からないのか。日本の若者が米国を防衛するため血を流し、米国の若者がテレビでそれを見ているという逆の場面を想像して感じることは何もないか。

 ●戦後体制脱却のチャンス
 うまいメシさえ食えればいいと、軽武装・経済大国を目指す「吉田ドクトリン」なる遁辞とんじを勝手につくり出し、古ぼけた占領基本法である日本国憲法を死守しようなどとトンチンカンなことをやってきた戦後の日本全体に、トランプ大統領が気合を入れてくれた、と私は解釈する。
 日本を軍事的に戦えない国にすることをそもそも目指した米国だが、時代は激変した。軍事大国の中国が出現し、米国が自らの国益を第一に考えることになれば、日本はどうしなければならないのか自明だろう。安倍晋三首相が唱えた「戦後レジームからの脱却」はチャンスを迎えたのだ。(了)