公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

細川昌彦

【第609回】なぜ歪む、対韓輸出管理の報道

細川昌彦 / 2019.07.22 (月)


中部大学特任教授 細川昌彦

 

 なぜ韓国の問題になると日本の報道は歪むのか。「半導体材料の事実上の禁輸」との報道や「世界貿易機関(WTO)協定違反の疑い」との批判もあった。いずれも輸出管理制度への無理解からくる誤解によるものだ。
 国内では朝鮮人戦時労働者の問題を巡って、韓国への対抗措置を求める声が高まっていたので、今回の措置を事実上の対抗措置と見る人もいた。メディアはそれを受けて歪んだ報道になっていった。韓国はそれを見て過剰反応をしている。

 ●戦時労働者問題の対抗措置ではない
 軍事転用可能な物資が懸念国に流出するのを阻止するため、先進各国は国際的な枠組みの下で厳格な輸出管理を行ってきた。本件はそうした国際的な義務を履行するための措置だ。一部大国の身勝手な論理による制裁措置とは本質的に異なる。
 しかも、単なる運用の見直しで、新たな規制を発動したものではない。例外的に簡便な「包括許可」から、本来の原則の「個別許可」に運用を戻すにすぎない。
 なぜこうした運用の見直しをしたのか。韓国は「政治目的だ」と批判する。しかし、今回の措置の「理由」は輸出管理上の問題だ。戦時労働者問題は「背景」にすぎない。「理由」と「背景」を混同してはいけない。
 特別に簡便な手続きで優遇するいわゆるホワイト国とは、輸出管理に関する緊密な意見交換が不可欠だが、ここ3年間、韓国は応じていない。ホワイト国から外すのは当然だ。
 この結果、韓国は他のアジア諸国並みの扱いになるだけだ。ちなみに、欧州連合(EU)が輸出管理で特別に優遇しているのは日本を含め8か国で、韓国は入っていない。
 韓国については輸出管理の不適切事案もあった。ずさんな管理の取引が頻発していた。これを放置して、仮に第三国への流出があると、国際的には日本の管理責任が問われる。
 これらは今回の措置を正当化する「理由」として十分だ。韓国は「背景」である朝鮮人戦時労働者問題を取り出して「政治目的だ」と主張している。しかし、戦時労働者問題がなくても、今回の措置は実施されている。仮に戦時労働者問題が解決しても、撤回されることはない。

 ●WTO違反になり得ない
 韓国はWTOの場に本件を持ち出している。しかし、安全保障のための輸出管理は国際合意に基づいて各国が実施しているもので、WTO協定の安全保障例外に当たる。今回の措置が協定違反ならば、各国の輸出管理も協定違反になってしまう。
 また、韓国の半導体生産に大打撃になり、世界の供給網を揺るがすとの報道もある。しかし、今回の措置は禁輸ではない。個別許可になると手間はかかるが、通常の取引は許可される。深刻な影響を与えるわけがない。現に個別許可になっている他のアジア諸国向け輸出は何ら支障が生じていない。制度への無理解からくるこうした報道が産業界の不安を煽り、韓国に批判を強めさせることになっている。
 正しい情報が伝わっていないからこそ、日本は国際社会に輸出管理の論理で「やるべきことをやっている」ことをきちんと説明する努力が必要だ。(了)