公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

【第43回】争点隠しの姑息な戦術

遠藤浩一 / 2010.06.21 (月)


国基研理事・拓殖大学教授 遠藤浩一

おそらく清水の舞台から飛び降りるくらゐの覚悟だつたに違ひない。自民党は参院選のマニフェストに消費税率 10%引き上げを明記した。民主党の出方如何によつては、この消費税増税問題が争点となる筈だつた。さうなれば自民党は民主党に対して「財源無きバラマキ」と批判し、攻勢を強めることができただらう。

ところが民主党はスルリとこの問題を回避した。マニフェストに「消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始」と記し、菅直人首相自ら記者会見で「当面の税率は自民党が提案している10%を一つの参考にしたい」と明言してみせたのである。

消費税率で自民に擦り寄り
選挙必勝の要諦は争点を先に設定することである。自民党が先んじて設定した消費税率の引き上げを含めた財政再建問題が争点となれば、財源なきバラマキ路線の民主党は不利になつただらうが、菅首相が「超党派の問題」にスリ替へたことで、争点ではなくなつてしまつた。いはば「抱きつきスリ」作戦が奏効したといへる。谷垣禎一自民党総裁は「民主党が擦り寄つてきた」と唇を噛みしめるが、後の祭り。政略勘において菅氏のはうが一枚上といふことだ。もはや自民党に切り札はない。

それにしても消費税率問題のみならず、法人税率引き下げや子ども手当の減額、日米合意重視など、一年も経たぬうちに民主党のマニフェストは一変した。過ちては則ち改むるにはばかることなかれといふ。現実路線への転換は結構だが、だつたら、昨年までのマニフェストはいつたい何だつたのか、あのマニフェストによつて獲得した(とされる)衆議院の圧倒的議席の意味は何なのか、といふことである。一年も経たぬうちに大幅に改定されるといふことは、今掲げてゐるマニフェストも簡単に改変される可能性があるといふことだ。

明白な政策行き詰まり
マニフェストの改定は政策の行き詰まりを意味する。菅氏はかつて「政策的に行き詰まったり、スキャンダルによって総理が内閣総辞職を決めた場合は、与党内で政権のたらいまわしをするのではなく、与党は次の総理候補を決めたうえで衆議院を解散し、野党も総理候補を明確にしたうえで総選挙に挑むべきだろう」(『大臣』)と託宣したものである。「菅直人」氏は、二人ゐるのだらうか?

平然と政権をたらひまはしし、国会の会期延長を拒み、政権公約を大幅に改変し、争点隠しをしてまで参院選で勝ちたいと、小才を弄する菅氏に申し上げたい。かうした御都合主義は、鳩山政権がさうであつたやうに、早晩馬脚をあらはすに決まつてゐる、と。(了)

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第43回:争点隠しの姑息な戦術(遠藤浩一)