公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

大岩雄次郎

【第44回】正当性なき消費増税は大きな政府への回帰

大岩雄次郎 / 2010.06.28 (月)


国基研企画委員・東京国際大学教授 大岩雄次郎

菅首相は、先週の主要8か国(G8)首脳会議(サミット)で、消費税率の引き上げに触れなかっただけでなく、消費税という単語にすら言及しなかったと報じられた。わが国の経済・財政状況には、参院選へのそうした方便として政策論議を操る余裕はない。選挙戦術で政策を論じるのを慎み、2009年総選挙の民主党マニフェストを総括した上で、政策の根拠について、政権政党として説明責任を果たすべきである。

「第三の道」は空論
現在の経済・財政問題は、わが国の経済成長率が20年間で平均0.8%と低迷した結果である。消費税に限らず、増税自体は手段であり目的ではない。国民から移転した所得をどのように経済成長に繋げるのかが根本的な問題であり、菅政権ではその点が依然不明である。その意味では、鳩山前政権と全く変わっていない。「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」を目指すのは当然であり、問題はそれらを如何にして実現するかである。その具体的な政策内容が不明である以上、「第三の道」論は空論にすぎない。

増税の封印を解いた上で、歳出増が成長を刺激するという論理は、「大きな政府」論と同じである。イギリスのキャメロン新首相は、消費税に相当する付加価値税を引き上げると同時に、子ども手当の3年間凍結や福祉給付の抑制、公務員給与の2年間凍結を表明した。こうした政策運営の感覚なしには、今後さまざまな分野で、郵政を事実上の国営化に戻そうとするご都合主義の論理を止められなくなるのは予想に難くない。

ギリシャ問題は理由にならない
菅首相は、ギリシャの財政危機をわが国の将来の姿に重ね、財政健全化の名の下に、消費税増税の流れを作ろうとしているが、日本とギリシャの経済・財政状況が全く異なることは明らかである。そうした間違った認識の下に危機意識をあおることは、国民に問題の本質を見失わせる恐れがある。必要なのは、実効性のある経済成長政策である。成長戦略の基本は、産業の労働生産性を引き上げ、一人当たり賃金をどれほど引き上げられるかである。民主党が最初から主張している医療・介護の分野は、その他の非製造業と比較しても労働生産性は低く、一人当たり付加価値でみると、全産業の半分程度しかない。これらの分野への資源投入により、マクロの生産性を大幅に高めることは容易でない。社会保障の雇用創出効果により経済を成長させるという実効性の乏しい「第三の道」論から脱却し、保護の撤廃や規制緩和による供給サイドの改善を図ることで、民間主導の「強い経済」を回復させることこそが、将来の国民負担を最小限に抑え、財政健全化と経済成長を両立させる方策である。(了)

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第44回:正当性なき消費増税は大きな政府への回帰(大岩雄次郎)