インド太平洋の緩やかな日米豪印4カ国安全保障対話(クアッド)が、地域安全保障の新しい枠組みの構築へと動き出したことを歓迎する。米主導の国際秩序に挑戦する中国が周辺国への露骨な領域侵犯と懲罰外交を繰り返しているからだ。6日に東京で開催された日米豪印外相会議は、対話を定例化することで合意し、4カ国以外にも「クアッド・プラス」として協力を拡大する方針を確認した。米国はすでに、有志国との対中結束にカジを切っており、今後、中国の巨大軍事力を抑止するインド太平洋同盟へと脱皮するよう期待する。
●日米豪印が対話国拡大で一致
議長の茂木敏充外相は、中国を念頭に「既存の国際秩序が挑戦を受けている」と述べ、新型コロナウイルスの大流行が「この傾向を拡大させている」との認識を示した。中国の習近平政権がウイルス発生源としての弱みを見せまいと凶暴化し、自制が効かなくなったことを踏まえた発言だ。
中国による領域侵犯の典型例は、インド北部の係争地で起きた。6月に中印両軍が衝突して、いまも双方合わせて10万の兵力が対峙している。南シナ海で中国は人工島の軍事拠点化を進め、ベトナムやマレーシアの船舶を威嚇し、東シナ海でも沖縄県の尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す。他方、中国の意に沿わない国に対しては「懲罰外交」を発動する。中国はオーストラリアがウイルス発生源に関する調査を求めたのに対し、大麦など農産物を対象に経済制裁を科した。いまや世界130カ国・地域にとって中国が最大の貿易相手国になっていると豪語し、逆らう国は徹底的に威嚇する。
中国の領域侵犯と懲罰外交に対しては、周辺国が結束して不測の事態に備え、中国をサプライチェーン(供給網)から切り離すなど、その代償を払わせなければならない。中国の威嚇が、それまで中国の出方を恐れてきたインドと豪州を近づけたのは当然の流れだ。両国の軍は6月に物品役務相互提供協定を結び、クアッドを強化する追い風とした。
●地域安保の新しい枠組み
中国は、自らの拡張主義がクアッドの結束を引き起こしてしまったことに狼狽しているようだ。王毅外相が来日して菅義偉首相らと会談するとのニュースが流れたものの、中国外務省報道官は「中国側の申し入れか」との質問に確答を避けた。米国主導によりベトナム、ニュージーランド、インドネシア、そして台湾まで含む地域安全保障の新しい枠組みができることへの警戒心が外相来日ににじむ。
かつて北大西洋条約機構(NATO)軍が巨大なソ連軍と対峙できたのは、ソ連を恐れた国々が結束したからだ。インド太平洋にあっても、中国を恐れる国々に結束する余地が出てきた。インドネシアはナトゥナ諸島周辺への中国公船の不当な侵入に関して国連事務総長に外交通牒を送り、マレーシアも中国に対抗して大陸棚の外縁を拡張する主張を明確にしている。両国はじめ東南アジア諸国連合(ASEAN)の沿岸国はクアッド・プラスの有資格国である。自由の同盟は中国共産党の軍門に下らない。(了)