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湯浅博

【第732回・特別版】中国の攻撃性が「クアッド・プラス」を動かす

湯浅博 / 2020.10.26 (月)


国基研企画委員兼主任研究員 湯浅博

 

 菅義偉首相の先週の東南アジア訪問は、中国を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」の修辞に貫かれていた。菅首相は安倍晋三前首相が敷いたレールの上で、日米豪印4カ国安全保障対話(クアッド)を動かし、初外遊によって東南アジア諸国連合(ASEAN)中核国との連携を強化した。中国の習近平政権が周辺国への露骨な圧力外交をやめない限り、4カ国以外にも枠組みを広げて「ソフト・アライアンス」(柔軟な同盟)への道を探ることになる。

 ●菅首相の東南ア訪問で連携強化
 菅首相は安倍前首相のような華こそないが、初外遊を堅実にこなした。現在のASEAN議長国ベトナム、東南アジアの盟主インドネシアの両国訪問は、今月初めに東京で開催された日米豪印外相会議を受ける絶好のタイミングで行われた。中国の王毅外相は13日、訪問先のマレーシアで、日米豪印の動きを「インド太平洋版のNATO(北大西洋条約機構)を構築する企て」と非難のトーンを上げた。菅首相のベトナム、インドネシア訪問を控えて、ASEANが「クアッド・プラス」に取り込まれないようクギを刺したつもりなのだろう。
 中国の最大の懸念は、クアッドが拡大してNATOのような「締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなす」という「ハード・アライアンス」(強固な軍事同盟)に変貌し、中国包囲網がつくられることである。実際には、菅首相が今回の2カ国訪問で強調したのは、二つの大洋にまたがる広大な地域で、法の支配、主権の尊重、自由市場など共通の価値観に基づく緩やかな連携と繁栄を追求しようとするものだ。
 それはASEANが昨年6月、安倍前首相のインド太平洋構想にある「自由」を「包摂的」に置き換え、より緩やかな「インド太平洋概観」を打ち出したことへの配慮かもしれない。日本とASEANの構想を束ね、同じ方向に導く必要がある。その作業は、鋭角的な米国流の発想では難しく、ASEANと長年接してきた日本の役割である。
 菅首相はハノイ演説で、二つの構想には共通項があると称賛し、「南シナ海でASEAN構想にある法の支配に逆行する動きが起きている。緊張を高めるいかなる行為にも反対する」と述べ、国際ルールを無視する中国を強くけん制した。そのうえで、防衛装備品の技術移転を認め、医療物資などのサプライチェーンの強化による相互補完で合意した。

 ●米は「柔軟な同盟」探る
 クアッドが東京会議で緩やかな戦略的連合で合意できたのは、最近の攻撃的な中国の膨張主義によるものだ。特に北西部で中国軍と対峙するインドは、11月の合同軍事演習「マラバール」に日米とともに豪州にも招待状を出し、史上初の4カ国軍事演習を刻む。
 さらに、米国によるソフト・アライアンス構築の取り組みは、10月下旬に訪印するポンペオ国務長官とエスパー国防長官らによって具体的な協議が進む。クアッドが従来の協議体から、東南アジア、欧州の有志国を含む新しい多国間安全保障枠組みに発展するかは、皮肉にも中国膨張主義の攻撃性にかかっている。(了)