インドが今年の「マラバール」合同海軍演習にオーストラリアを招いたのは、画期的な決定だった。日米豪印4カ国が東京で外相会議を開いた直後の招待である。マラバールは1992年に米印間で始まり、2015年に日本が正式に加わった。豪州もやがてマラバールの正式メンバーとなりそうだ。
●インドが安保協力へ大転換
豪州はかなり前からマラバール演習への復帰を望んできた。しかし、インドは豪州を参加させることに消極的だった。2007年に中国の圧力で豪州が4カ国安全保障対話(クアッド)からの離脱を決め、そのために第1次クアッドに終止符が打たれた経緯があるからだ。クアッドは2017年に外務省局長級で復活し、2019年には外相級に格上げされた。
インドは豪州を今回招いたことにより、クアッドの枠組みでの安全保障協力に対する従来の慎重な姿勢を大きく転換したことを示した。これは、インド北部ラダック地区における中国との軍事衝突でインド兵20人が死亡した出来事があったためである。東シナ海と南シナ海、香港、台湾をめぐる中国の非妥協的態度の強まりもインド太平洋地域に緊張を生み、クアッドとマラバール演習の強化に寄与した。
日米豪印は第1次クアッドより前、2004年のインド洋大津波で海軍協力を行っている。これは人道的な災害救援活動を調整するための臨時のメカニズムであって、その後になって軍の協力が政治的色彩を帯びるようになった。従って海軍協力はクアッドのDNAに埋め込まれているものである。
●豪州参加の地政学的重要性
マラバール演習に豪州を含めることの地政学的重要性は、どれだけ誇張してもし過ぎることはない。第一に、今やインドはクアッドのメンバーとのしっかりした安全保障協力を以前よりも割と受け入れるようになっている。インドはクアッドのメンバーと軍の補給物資を提供し合う重要な協定を既に結んでいるし、二国間の軍事演習も行っている。第二に、中国は当初クアッドをすぐに消える海の「泡」にすぎないと言っていたのに、今では「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」の始まりをクアッドに見ている。中国の恐れは大げさかもしれないが、中国は確かに心配している。第三に、マラバール演習はインド太平洋地域の安全と安定につながる。第四に、マラバールへの豪州の取り込みはクアッドの安全保障的側面をより明確にする。
中国の行動がますます強引になるにつれて、クアッドの制度化が今後進むかもしれない。日米豪印の国防相会議や究極的には首脳会議の開催、クアッド憲章の採択、クアッド事務局の設置もありそうだ。ただし、それはまだ、将来いつかの話である。米大統領選挙の結果と新政権の外交・安全保障政策もクアッドの進化に影響を及ぼすだろう。(了)