公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

松本尚

【第743回】冷静になってコロナ対応策を再考せよ

松本尚 / 2020.12.07 (月)


日本医科大学教授 松本尚

 

 武漢ウイルス感染症による「annus horribilis」(ひどい年)もあと20日余りである。この間、メディアは不安を煽るような報道を続け、結果、国民はこの感染症をおぞましい疫病のように扱うようになった。そろそろ冷静に現状の対応策を再考すべきである。
 集中治療室(ICU)の病床が逼迫ひっぱくしているといわれる。確かに重症患者が集中する一部の医療機関では大変な状況であろう。しかし、ICUへの入室基準や人工呼吸器の装着基準は施設や医師によって様々であり、一概に重症者数とICUの病床数の多寡だけで医療崩壊と呼ぶのは正しくない。入室患者の詳細を類型化し、どの型が医療の逼迫につながるのかを分析、モニタリングしなければならない。
 一般の病床については、無症状の要介護者や個人的事情のある患者の入院によって病床が埋まっていく例も少なくない。感染者全員を入院の対象にすることは不可能である。治療の必要性の高い患者が入院の対象となるよう患者の流れを再考しなければならない。

 ●医療機関は過剰な恐怖をぬぐい去れ
 武漢ウイルス感染症患者を受け入れている病院では、過剰な感染防御策や就業制限などの院内の感染対策が、医療スタッフの通常業務を圧迫しているということはないか。今一度、冷静に自施設の対応策を検討し直してみることが重要である。
 そもそもパンデミックになっている現状で、特定の病院だけで外来患者や入院患者を診ていることが医療現場を逼迫させる原因なのではないか。発熱患者や軽症の感染患者は開業医レベルでの診療にシフトさせていく必要がある。市中のクリニックでは、多少の見逃しは許容して迅速・簡便に感染の判定可能な抗原検査に移行するのが妥当である。開業医が感染者の在宅療養をフォローできれば、ホテル療養からの撤退や症状悪化者の早期発見が可能となる。
 メディアによる報道が度を越していたため、開業医がこの病気を過剰に恐れていることが一般病院への圧迫を助長している。開業医を束ねる日本医師会には、政府批判ではなく、この傾向を是正すべく対応していただきたい。

 ●日本人の特性で前に進め
 感染者数が増えるたびに、人の移動を抑えよとか、飲食店は営業自粛をせよとメディアは騒ぎ立てる。しかし経済活動の縮小は国にとって致命的である。政府は経済の活性化を決して弱めてはならない。世界に目をやると、人の移動を制限せずに感染対策に成功している国は見られない。その一方で、地域と期間の限定的なロックダウン(都市封鎖)が奏効している例もある。
 しかし、欧米と違って、わが国では法的にも厳しい措置をとることはできないし、日本人は感染対策を疎かにもしない。つまりは、日本や日本人の特性に合わせた対応―感染予防策の遵守率の高さを背景として、地域限定・短期集中で緩い制限を繰り返しつつ経済活性化を図ること―が可能であると考える。
 菅政権には、是非ともこうした方針を国民に明示し、国が一体となって前に進めるようにしてほしい。(了)