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細川昌彦

【第935回】輸出管理問題解決のボールは韓国側にある

細川昌彦 / 2022.06.27 (月)


国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦

 

 韓国の新政権が発足し、戦後最悪とまで言われる日韓関係の関係改善へ期待が高まっている。そのためには朝鮮人戦時労働者の問題をはじめとする日韓間の懸案解決が不可欠だ。懸案の一つが3年前に日本が韓国に対して発動した輸出管理の厳格化措置だ。

 ●「空騒ぎ」に過剰反応
 相手国の輸出管理が信頼できる場合、その国に対して簡便な手続きで輸出できる通称「ホワイト国」という優遇措置があるが、日本は2019年、韓国をこのホワイト国から除外した。そして半導体材料の3品目について、それまでは一度許可を得れば3年間は申請なしで輸出できる包括許可だったのを、契約ごとに審査・許可する個別許可に切り替えた。理由は韓国のずさんな輸出管理により半導体材料が「行方不明」になる事案が頻発したことと、韓国が輸出管理当局同士の緊密な意見交換に応じてこなかったことだった。
 当時、「韓国の半導体生産に大打撃」との日本の報道に、私は「個別許可になっても正常な取引は許可され、深刻な影響を与えない。空騒ぎだ」と指摘した(本欄第609回「なぜ歪む、対韓輸出管理の報道」)。元々個別許可になっている台湾をはじめ他のアジア諸国向け輸出は何ら支障が生じていない。
 案の定、歪んだ日本の報道を受けて韓国は日本への反発を強め、国産化の旗振りに躍起となった。
 そして2年経った昨年、文在寅前大統領は「国産化の成果」に胸を張った。しかし、これがおよそ事実を歪めたものだった。
 私の指摘した通り、韓国向け輸出は何ら問題なく行われており、「空騒ぎ」だったのだ。当時不安を煽った日本の「識者」やマスコミの責任は重い。3品目のうち2品目については、日本からの輸入額はむしろ増えている。残るフッ化水素は、低純度で済む用途には一部国産品が使われているようだが、高純度品は相変わらず日本企業に依存している。日本からの輸入が減っても日本企業の他国工場からの輸入が増えている実態さえある。
 要するに「脱日本」は胸を張れるような成果ではないのだ。そうした現実を歪曲して、文前政権は国内向けに粉飾したストーリーを喧伝していた。

 ●政治決着は正常化を阻害する
 私は、この問題は朝鮮人戦時労働者の問題とリンクさせず、あくまでも輸出管理の論理で粛々と処理すべきだと主張してきた(本欄第640回「日韓の輸出管理対話をどう見るべきか」)。あくまでボールは韓国側にある。韓国が輸出管理の体制や3品目の管理など自国の問題点を改善し、それを日本が対話を通じて確認すれば解決する問題なのだ。
 韓国は日本の措置に対して、国内向けアピールのために無理を承知で世界貿易機関(WTO)に提訴しているが、こうした振り上げた拳を下ろすのが先決だ。そうでない限り、輸出管理当局の責任者同士の対話を再開できないのは当然だ。
 こうした当たり前のプロセスを政治問題化せずに行うことが「大人の関係」になれるかどうかの試金石だ。訳の分からない政治決着は一見もっともらしいが、むしろ将来の成熟した日韓関係を阻害する。(了)