公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

奈良林直

【第1007回】日本の原子力活用が称賛された

奈良林直 / 2023.02.06 (月)


国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林直

 

 1月30日から2月2日まで米フロリダ州フォートローダーデールで開催された職業被ばく情報システム(Information System on Occupational Exposure=ISOE、アイゾエ)の北米シンポジウムに参加した。ISOEは、世界の430基を超える原子力発電所の事故・トラブル情報を共有し、原発で働く人たちの職業被ばくを可能な限り削減することを追求するフォーラムだ。国際原子力機関(IAEA)と経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)が共同で運営している。

 ●オンラインメンテナンスの勧め
 筆者はプレゼンテーションで、岸田文雄首相が原子力発電の最大限の活用を宣言したにもかかわらず、原子力規制委員会による再稼働の審査が大幅に遅延していることを指摘し、我が国の原子力規制の改革が必要であることを説いた。また、原発の保全作業に伴う職業被ばくを防止するには空気浄化システムの導入が効果的なことや、原子力の活用が我が国の脱炭素、電力の安定供給、経済成長の一石三鳥の意義があることを説明し、出席者から大きな拍手をもらった。
 実は、原発の信頼性や安全性を確保する保全作業に伴う職業被ばくはISOEの活動により、我が国を除いて劇的に改善されている。我が国の原発の保全作業は分解点検を主体としているため、作業員の被ばくが多い。一方、海外では状態監視保全と言って、電動バルブやポンプを作動させるモーターの消費電流やトルク(回転力)を監視して機器の異常を常時見張り、また複数系統の中から1系統をバルブで切り離すなどして、運転中にメンテナンスを行うオンラインメンテナンスが主体である。
 保全作業を規制当局が監督する仕組みを米国の原子力規制委員会(NRC)では原子炉監督制度(ROP)と言い、我が国でも導入された。しかし、定期検査時の膨大な分解点検作業は、作業員の被ばくを増やすばかりで、効率的でない。オンラインメンテナンスの方法で軸受けなどの摩耗しやすい部品の状態やその最適な交換期間を把握できる。その成果を参加者全員が共有し、作業ミスや失敗を回避する。定検時の分解点検を主体とした我が国と、オンラインメンテナンスをしている欧米諸国との差は拡大するばかりである。

 ●太陽光発電にCO2削減効果なし
 また筆者はプレゼンテーションで、二酸化炭素(CO2)の排出係数(発電時の電力量1キロワット時<kWh>当たりのCO2排出グラム数)の観点から、太陽光発電ではほとんどCO2削減効果が無いこと、風力発電でもCO2削減目標の達成は無理であること、水力発電と原子力発電のみが排出係数を効果的に削減できることを、世界の発電と二酸化炭素の排出データから説明した。
 また、ドイツの脱原発政策がロシア産天然ガスへの依存政策に過ぎず、ロシアのウクライナ侵略に対する西側の制裁とロシアの報復で欧州の天然ガス高騰を招いたことや、我が国の主要紙がそのドイツのエネルギー政策を礼賛してきたことの愚かさを指摘した。(了)