米議会は2023会計年度末の9月30日深夜、11月半ばまでのつなぎ予算を可決し、バイデン大統領が署名した。政府機関の一部閉鎖が回避されたので、米国民の大方は一安心だろう。しかし、バイデン政権が議会に要請していたウクライナ向け追加援助240億ドル(約3兆6000億円)は削除されてしまった。共和党強硬派の意向を汲んだマッカーシー下院議長(共和)の判断によるといわれるが、西側のウクライナ支援の中核を占める米国の一挙手一投足はウクライナの国運にかかわるし、「ウクライナ疲れ」が見え始めた一部同盟諸国への影響は小さくない。
●共和党に強まる援助見直し論
ウクライナ支援は大きな曲がり角に差し掛かっている。追加援助は9月21日にワシントンを訪れたゼレンスキー・ウクライナ大統領とバイデン大統領の間で合意した額だ。何らかの形で復活させなければならないが、米国内には広い範囲で消極論が台頭している。
ゼレンスキー大統領の訪問に合わせたかのように、米共和党の上院議員6人、下院議員23人が行政管理予算局長官に意見書を提出した。ウクライナ向け援助は白紙の小切手ではないか、ウクライナ軍の進撃は順調に進んでいるのか、米国の財政赤字はこれ以上放置しておけないのではないか、などの疑問を率直にぶつけている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの最近の世論調査では、共和党支持者の62%が「ウクライナへの援助はやり過ぎ」と答えている。
昨年12月、ロシア軍の侵攻後初の外国訪問先に米国を選んだゼレンスキー大統領は、ワシントンで熱烈に歓迎された。しかし、今回、マッカーシー議長は下院での出迎えに姿を見せなかった。前回と同様に上下両院合同会議で演説させてほしいというウクライナ側の要請は拒否された。
ワシントンに次いでカナダの首都オタワを訪問したゼレンスキー大統領は上下両院合同会議で全員起立の大きな拍手を受けたが、両首都におけるこれほどの対応の相違をどう受け取ったか。確かにバイデン大統領は「われわれはあなた方と共にあり続ける」と述べたが、ウクライナが一番欲しかった射程300キロの地対地ミサイルATACMSの供与はその場で公表されなかった。
●侵略国救えば国際秩序が変わる
米国の意見対立は外交面にはっきり反映されるようになった。米国と歩調を合わせてきた同盟国は、仮に米国の対ウクライナ政策がすこしでもぶれたらどうするつもりか。
ウクライナに最も好意的だったポーランドでは、モラウィエツキ首相がウクライナ産穀物の市場流入をめぐる対立に立腹し、「もうウクライナに武器を送らない」と発言した。すぐにドゥダ大統領は「自国のために購入している新兵器」のことだと修正した。しかし、両国関係はこの程度だったとの印象を国際社会に与えてしまったことは否めない。
ましてや米国の政策変更があれば、ロシアを救済し、ウクライナに致命傷を与える。国際秩序の変化のきっかけとなるのは必至だ。(了)