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有元隆志

【第1076回】岸田首相は「解散」を弄ぶ前に政策を実行せよ

有元隆志 / 2023.10.10 (火)


国基研企画委員・月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 政権発足から4日で丸2年を迎えた岸田文雄首相は記者団に「一つ一つに真正面から向き合い、決断し実行する。こうしたことを続けてきた2年間だった」と振り返った。昨年12月の「国家安全保障戦略」など安保3文書を閣議決定したこと、防衛費を令和9年度に国内総生産(GDP)比2%に増額すると決めたことなどは評価できる。だが、政府内から聞こえてくるのは「3文書などを実行する推進力が鈍っている」との懸念だ。

 ●サイバー法整備の遅れ
 例えば、「国家安全保障戦略」ではサイバー防御を強化するため、攻撃者のサーバーなどに侵入して無害化することを可能とする「能動的サイバー防御」の導入が盛り込まれた。攻撃者とみられるサーバーに侵入するために「不正アクセス禁止法」の改正などが必要となる。通信の秘密の不可侵を定めた憲法第21条の解釈も明確にすべきだとの声もある。
 ウクライナ戦争をみても、ロシアは侵攻前からサイバー攻撃を繰り返した。サイバー防御強化は喫緊の課題であり早期に法整備を進める必要があるが、「秋の臨時国会はもちろん、来年の通常国会に法案を提出する雰囲気はない」とある政府当局者は漏らす。「市民への監視やプライバシーの侵害につながる」との批判があるため、衆院解散・総選挙をにらみ、対立を生むような法案の国会提出には岸田首相が慎重になっているとの指摘がある。
 岸田政権が丸2年を迎えた4日の朝刊で、読売新聞は「解散 選択肢狭めない」、朝日新聞は「首相 解散カード、秋も冬も」との見出しをつけた。岸田首相が衆院の解散・総選挙に踏み切るかもしれないとの「解散風」が永田町に流れていると紹介したものだ。ここまで首相が「解散カード」を使うのは異例といえる。
 衆院議員の任期は10月に折り返しの2年を迎えた。現行憲法下での衆院議員の平均在職日数1020日(約2年10カ月)を考えるといつ選挙があってもおかしくない。岸田首相が「解散風」を吹かせると、議員たちは国会で政策立案に力を入れる精神的な余裕はなくなる。

 ●本末転倒の「トランプ待ち」
 別の政府当局者によると、来年の米大統領選でトランプ前大統領が当選する可能性があり、日本を含めた同盟国に対し防衛力強化の注文が来ることが予想されるので、それまでは様子見をしていたほうがいいとの空気が政府内にはあるという。本末転倒である。
 岸田首相は「解散カード」を弄ぶのではなく、サイバー対策などを速やかに実行すべきであろう。(了)
 
 

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